『ひとり家飲み通い呑み』-楽しいんだな、これが

栗下 直也2012年04月10日 印刷向け表示
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ひとり家飲み通い呑み
作者:久住 昌之
出版社:日本文芸社
発売日:2012-01-30
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「居酒屋で、じゃこと大根サラダのじゃこだけを閉店まで食べたい。ただ、大根はいらないが、チキンハートの俺にはじゃこだけ大盛りでくださいとは言えない」(32歳男性)

「クルトン入れ放題の店で『入れ放題』って書いてあるからといっても控えめな自分がいたりする。クルトン入りのスープでなく、スープがついた大量のクルトンをビールで喰らいたいのに」(32歳男性)

子供じみた思いかもしれない。だが、そんな欲望が時々、32歳の私を襲う。あなただって、程度の差こそあれ、似たような思いをしていないか。宴会で「おい、何で俺の一杯目が勝手に『とりあえずのビール』なんだよ。俺はホッピー派だよ」と思っても、「やっぱビールっすね」と隣の部長にほほえんでいたりしてないか。地元の寿司屋ではトロばかり頼むため、「トロの帝王」と店員にマークされているあなたも会社の後輩と行く寿司屋では「同じネタだけ頼むのはマナー違反だよ」とドヤ顔で先輩風を吹かしていないか。

おそらく、楽しみな外食であっても、時には、どこか心の片隅で人様の目を気にして、かしこまっている私やあなたがいるだろう。

でも、私は声を大にして言いたい。「ビール」と「じゃこと大根サラダ」でなく、きんきんの「ホッピー」で「ジャコ」をたらふく食べたい。きんきんの「ホッピー」で「ジャコ」をエンドレスにたらふく食べたい。誰の目も気にせず、飲みたい酒と食べたいものの組み合わせを心ゆくまで味わい、至福の時を過ごしたい。それが「外飲み」では得られない、「ひとり家飲み」の醍醐味だ。単なる「家飲み」ではだめだ。「その組み合わせなに?きもい」とか恋人や妻に言われたりするはずだ。へたしたら破局してしまう。

本書はこうした「ひとり家飲み」のすばらしさを説くと同時に、様々な酒と飯の組みあわせが並び、酒飲みをうらなせる。特筆すべきなのは「つまみ」と酒でなく、単品で「飯」として成立するような一品と酒の組み合わせを追及した点だ(通い呑みについても触れられているが全体の7割は家飲みについてなので紹介は割愛)。「単なる酒の本をHONZで紹介するな」とかつっこまれそうだが、馬鹿を言っちゃいけない。本書は著者の「血」と「汗」と「涙」の結晶・・・ではなく、最適な組み合わせを求めるがため幾度と無く襲われたであろう「腹痛」と、「悪酔い」と「吐瀉物」を乗り越えた終着駅なのだ。意外にシンプルだったり、変化球だったりするわけだが、ひとつひとつに苦闘ならぬ苦悶の歴史があるのだ。これをノンフィクションといわず、何がノンフィクションだ、馬鹿野郎!

著者について触れておくと、最近テレビドラマ化もされた漫画『孤独のグルメ』の原作者だ。『孤独のグルメ』の内容は、中年男性が、餃子やカレーやら特に珍しくもない食べ物を街をぶらつきながらを食べるだけの話だ。「はあ~(よくわからない)」と言われそうだが、本当にそれだけなのだ。蘊蓄を語ったりする料理物でもなく、有名店のグルメガイドでもない。何が面白いのかもわからないかもしれない。実際、当初は人気が全くなかったらしい。全一巻という巻数からもそれはわかる。だが、なんとも言えない日常感が受けたのかじわじわと版を重ね、最近ドラマ化もされた。

さて、本題に戻るが肝心の家のみのメニューだが本書で記載されている内容をここで一部記そう。

「チャーハン」で「焼酎ロック」、「ツナトーストサンド」で「水割り」、「宅配ピザ」で「コークハイ」、「シウマイ弁当」で「缶ビール」、「うどん鍋」で「どぶろく」、「冷やし中華」で「発泡酒」、「焼きそば」で「ホッピー」、「焼きビーフン」で「紹興酒」、「とんかつ」で「ビール」などなど全21。王道からキワモノまで組み合わせは豊富だ。本書を読まずに試してもらってもいいが、本書をしっくり読めば、一段と心地よく酔えるはずだ。本書の楽しみ方としては、ひとつのメニューで一度に3回飲むこと。その組み合わせに至るまでの試行錯誤やうんちくを読んでごくり、自分で試してみてごくり、不味くても美味くても自分流にアレンジしてごくりだ。もう、そのころにはいい気持ちにできあがり、九九のかけ算もできなくなっているはずだ。

どの組み合わせがうまいかは、家飲み派各人が自ら試していただきたいが、本書では「一品物」に加え、サイドメニューもちょこちょこ出てくる。「納豆があればいつだってなんとかなる!」(127P)と記し、納豆汁についての言及があるが、個人的にも、やはり、家飲みの最強のツマミは納豆だと思う。コンビニで手に入る最高のユーティリティープレイヤーだ。納豆嫌いな人には悪いが、安いし、酒は選ばないし、残ったら翌朝のご飯にのせても食べられる。これ、チーカマじゃできない。チーカマと白米の朝ご飯。よくわからない。家族解散だ。そして、納豆をハイボールで飲めば最高である。納豆のねばねば、ハイボールのキリッ、納豆のねばねば、ハイボールのキリッ。この不協和音が今夜も私を酔いに導くのだ。菅野美穂に作って貰えなくても大満足なわけだ。ウイスキーはお好きですが。ぐはっ。

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孤独のグルメ 【新装版】
作者:久住 昌之
出版社:扶桑社
発売日:2008-04-22
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昼のセント酒
作者:久住昌之
出版社:カンゼン
発売日:2011-12-24
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昼に銭湯行って、酒をかっくらう本です。。。

吉田類の酒場放浪記 其の六 [DVD]
出版社:よしもとアール・アンド・シー
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