『宇宙就職案内』と『宇宙女子』

成毛 眞2012年05月21日 印刷向け表示
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宇宙就職案内 (プリマー新書)
作者:林 公代
出版社:筑摩書房
発売日:2012-05-07
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宇宙女子 (プラザムック)
作者:
出版社:蒼竜社
発売日:2012-02-03
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じつは2004年から2年間ほどJAXAの宇宙オープンラボ・アドバイザ委員を務めていたことがある。当時JAXAは「見上げる宇宙から使う宇宙へ」をスローガンに、宇宙オープンラボの民間利用を促進していたのだ。ホリエモンにはじめて会ったのも、このアドバイザ会議の場だった。JAXAはアメリカではIT経営者たちが次々と宇宙ビジネスに旅立つのをみて、日本でも宇宙に興味をもつIT関係者はいないかと探していたらしい。ソニーコンピュータサイエンス研究所取締役所長の北野宏明氏のその1人だった。当時のJAXA理事長は元NTTドコモ社長の立川敬二氏で、彼を囲んで宇宙マーケティングの可能性などについて良く話し合っていた。間違いなく一部の人たちにとって、宇宙はビジネスの場としてまさに最先端の場所になっていたのである。

『宇宙就職案内』はその身近になった宇宙関連の仕事についての現状報告だ。宇宙開発には「ピークを高く」「裾野を広く」という2つの方向性があるという。「ピークを高く」とはより深部の宇宙へ、「裾野を広く」とは開拓した宇宙を利用するという立場だ。本書の第1章ではまずそのピークを探る天文学者たちが登場する。日本で天文学を職業にしている人は700人ほどだという。そのうち250人ほどが国立天文台に勤務している。職場としてはごく小さく狭き門である。しかし、壮大な深宇宙を毎日覗き考えるという、まさに浮世離れした職業とは羨ましい限りである。その天文学者たちは1日30時間制を使っているという。すばる望遠鏡のあるハワイとの時差を考えると午前2時よりも26時のほうがミスコミュニケーションを減らすことができるからだ。もちろん天文学者たちはただただそこにある望遠鏡を覗いているだけではない。宇宙望遠鏡や観測装置も自作する。人類が太陽系外の惑星を初めて直接撮影したのは、日本人研究者が開発した観測装置によってだった。その名も「HiCIAO」ハイチャオ!

第2章は宇宙飛行士とそのサポートチームについてだ。高い基礎能力、長く厳しい訓練、宇宙との往復で100回に1回発生する重大事故、宇宙では誰かが発注した実験のオペレーターという立場などを考えると、宇宙飛行士とはいまでも冒険者なのだと思う。ところで、その宇宙飛行士たちが行う実験のなかでもっとも期待されているものの1つに新薬開発がある。無重量のなかでは熱対流がないため、タンパク質の結晶をきれいに成長させることができる。つまりタンパク質の立体構造が決定できるのだ。立体構造が判ればそれにぴったりと嵌めあう新薬を創り出すことができるというわけだ。将来、宇宙飛行士たちが命がけで開発に協力した新薬が登場してくることであろう。

天文学者、宇宙飛行士につづく3番目の仕事はロケットや探査機、人工衛星の開発者だ。先日「H2A」21号機が発射され、韓国の多目的観測衛星「アリラン3号」の軌道投入が成功した。液体燃料のH2Aは非常に高価なロケットで商業的に大成功するとは思われない、しかし2012年には固体燃料ロケットのイプシロンの打上げが予定されている。ノートパソコン1台で点検・管制可能という低コストシステムだ。本書では現在運用されている日本の宇宙貨物船「こうのとり」、小惑星探査機「はやぶさ」、月周回衛星「かぐや」、GPS衛星「みちびき」、陸域観測技術衛星「だいち」、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、水域観測技術衛星「しずく」などが紹介されている。それぞれの役割や機能を知るとワクワクしてくる。

とはいえ本書を読むかぎり、宇宙関連の仕事は非常に専門的・技術的で普通の人では近寄りがたいという印象になってしまう。しかし、実際には多くの普通の女子が宇宙関連ビジネスですでに働いているのだ。『宇宙女子』はそのガイドブックだ。JAXAで宇宙ステーションとの通信スケジュールを決めいるのは筑波技術短大卒の28歳の女子だ。ちなみに筑波技術短大は宇宙関連への就職実績が豊富だという。宇宙服を作るのは日本女子大学家政学部被服科卒業で現在ポンジョ教授の女子。大学時代にアルバイトで入った天文雑誌社でいつのまにか編集者になっていた女子。宇宙就活実行委員会を率いる現役女子大生。JAXAで日本の宇宙実験棟「きぼう」のプロモーターをしている女子は元ロンドン観光局公認ガイド。などなど24人の宇宙女子が登場する。

宇宙専門のフリーライターとして紹介されているのは林公代さん。よく見てみたら『宇宙就職案内』の著者だった。彼女の経歴はつくば万博でアルバイト、フリーペーパーを制作する新聞社で営業職、「YAC(日本宇宙少年団)」で編集者を経てフリーライターになっている。結局、みんな好き者なのだ。好きこそものの上手なれ。何かに夢中になることができる才能こそが本物の才能。宇宙のような極端な仕事場にこそ、本物の才能を持った人たちが集まっているのかもしれない。

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山本尚毅による「宇宙に行く」ベスト3冊

先週書店で眺めてから買うか買うまいか逡巡している高価本。困った困った。

ビジュアル 宇宙大図鑑
作者:キャロル・ストット
出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
発売日:2012-04-05
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これは買った。キレイだった。

マーカス・チャウンの太陽系図鑑
作者:マーカス・チャウン
出版社:オライリージャパン
発売日:2012-04-21
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