おさかな天国の終焉?『漁業という日本の問題』

栗下 直也2012年05月30日 印刷向け表示
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漁業という日本の問題
作者:勝川 俊雄
出版社:エヌティティ出版
発売日:2012-04-12
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突然だが、「さかな、さかな、さかなー、さかなーを食べるとー」という歌詞が最近、頭から離れない。ウィキペディアで調べたところ、20年前に作られた曲だった。市販化されたのは10年前で私の記憶はこの時のものだろう。曲名はご存じの方も多いかもしれないが『おさかな天国』であり、オリコンで最高3位に位置したという。

歌詞からわかるように「魚をもっと食べようよ」という水産庁の魚食普及キャンペーンの一環で作られたわけだが、実は魚の消費量は戦後右肩上がりに増え続け、10年前は日本の一人当たりの魚消費量がほぼピークに達した(厳密には2001年)時だ。現在もピークから2割程度落ちているが、歴史的には高水準にある。ここ何十年も「魚離れ」のイメージが強いが、『おさかな天国』のPRなど要らなかったのが魚食を取り巻く現状だと言っても過言ではないのだ。だが、我々、日本人は脳天気に「さかな、さかな、さかなー」と歌いながら魚を腹一杯に今後は食べられないかもしれないと警鐘を鳴らすのが本書。魚を食べたくても食べられない「魚不足」が我々には迫っているのだと指摘する。

いつもは、ここからさらっと内容に触れるのだが、内容に入る前にたまには表紙やタイトルを考えてみよう。おそらく作り手は我々、読者が考えている以上に、細かいことを考えて、作っているはずである。私など普段3秒程度チラ見して終わりだが、その心意気をたまには汲まなくてはいけない。1分ほど眺めてみた。

まず本を捲らずにも危機感が伝わる。寂れた漁船のバックに夕日が沈みかかっている光景。赤みがかった表紙は見た者に何かが終わってしまう危機感を強烈に与える。渡辺淳一もびっくりの落日ぶりである。次に、タイトル。『漁業という日本の問題』。『日本の漁業問題』でなく、漁業を先に持ってきて、「という」が物凄く不器用な形で入ることで漁業問題に矮小化して読んだらダメだよ、日本の根深い問題のひとつだという著者の「やばいよ、日本」メッセージがひしひしと伝わってくる。加えて、著者の略歴。三重大学の准教授である。水産学者である。本人を知らないので大変失礼だが、なんだか堅そうである。日が沈む表紙、不器用な「という」、水産学者。この時点で、否が応でも読む前から背筋を伸ばさずにはいられない。正座する勢いである。

しかし、いざ読み始めるとタイトルと表紙から受けた印象は良い意味で一変する。ゴツゴツとした文体をイメージしていたが何とも平易な言葉で読みやすい。統計資料を豊富に使っているため、論理のスキップもなく論旨も明快だ。漁業はもはや夕日が沈むどころか真夜中であることが嫌でも伝わってくる。

例えば鯖や真鰯はここ三十年で数十分の一に日本の漁獲量が減っている。漁獲規制を設けていないため、漁業者が好き放題に魚を乱獲し続けた結果だ。漁業者は目先の生産量が減るため、規制を望まず、政治家は票田を失い無くないため、メスを入れず、問題を先送りし続けた。まさに、日本の縮図が海上に広がっているのだ。

気がかりなのは頼みの綱であった輸入も減少している点。現在、生産量の減少で輸入量と国内生産量はほぼ同等だが、輸入がじわじわと下落傾向にある。世界的な魚ブームや中国が大量輸入していることで単価が上昇し続けているからだ。このまま国内の生産量が増えず、魚を好き放題食べていたら食卓の魚不足は避けられそうもない。

悲壮感漂う中身ではあるが、問題指摘だけでは終わらないのが本書の読ませる点。ノルウウェーやニュージーランド漁業再生の試みを参考に、漁業行政の改革案を提示する。学者でありながらも政治家に陳情に出向いたり、漁業者達に現状説明と復活に向けて漁獲規制の必要性を説いたりとフットワークの軽さもかいま見られる。本書を読む限り、漁業を取り巻く問題は根深いが、夜があれば朝がくるものだと不思議に希望が持てる読後感がある。思わず「さかな、さかな、さかなー」と叫びたくなってしまう。相当無理があるオチであるのは本人が一番承知しているのだ。

魚の経済学 第2版: 市場メカニズムの活用で資源を護る
作者:山下東子
出版社:日本評論社
発売日:2012-04-18
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これから食えなくなる魚 (幻冬舎新書)
作者:小松 正之
出版社:幻冬舎
発売日:2007-05
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漁師になるには (なるにはBOOKS)
作者:田中 克哲
出版社:ぺりかん社
発売日:2005-04
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