統一場へダイブ『大きな魚をつかまえよう―リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』

新井 文月2012年06月27日 印刷向け表示
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大きな魚をつかまえよう―リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン
作者:デイヴィッド リンチ
出版社:四月社
発売日:2012-04
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マイブームではないが、いつも本を探す時に気になるワードがある。それを一度意識しだすと、不思議なことにその言葉を何度も目にするようになるのは私だけだろうか。

最近は「至福」という言葉だった。意味を調べると、単純に「幸せ」という言葉にも段階があり、中でも至福は最上位における愛で満たされている状態らしい。偶然にも本書を購入した後にそのキーワードは各所に入っていた。著者によると至福は瞑想によって体感できるそうだ。

著者は映画監督デヴィッド・リンチ。日本ではアメリカンドラマ「ツイン・ピークス」など奇抜な作品が広く知られているが、他にも「ストレイト・ストーリー」など牧歌的で心温まる作品も制作している。彼は今、映画以外にも絵画や音楽などへ表現のフィールドを広げており、それらの作品はシュールレアリズムの影響が見られるのが特徴的だ。またロバート・ヘンライ著『アート・スピリット』の愛読者でもあり、その中で提唱するアート・ライフという考え方に触発され、若い頃は画家を目指していた。現在でも絵画は意欲的に創作しており、都内でも彼の絵の展覧会が開催される。また無類のコーヒー好きであり、コーヒー豆を販売する会社も設立しているらしい。とにかくそんなマルチなリンチ氏のアイデアはどこからくるのか?

著者は、アイデアを「大きな魚」にみたてている。小さい魚は浅瀬にいるが、大きな魚は深海に潜らないといけないと語っている。深海に潜る手段は瞑想にあると断言しており、彼によると閃きは創造の源泉だが、人は普段さまざまなストレスに抑圧され、十分なかたちでそれら閃きをつかむことはできないそうだ。アイデアをまるごとキャッチするには、瞑想により偶発的な出来事にも対処し得る潜在的な能力を引き出す必要があるのだという。

ヨガやインドエステが流行している昨今でも、瞑想ときくと敬遠する人は多いかもしれない。あとがきでは訳者がセルフケアの延長と考えたほうがいいと述べている。確かに服装を整えるのと同様、瞑想で自身の内部を整えるのもセルフケアだ。よくある瞑想効果としては、単純な集中力だけでなく、心の平静などがある。

TM瞑想法を提唱するマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーによれば、万物は一なるものを起源とし、最深部から浮かび上がるそうだ。近代物理学ではこの領域を統一場と呼んでいる。リンチ氏はこの中にある偉大なアイデアを魚にたとえ「瞑想により目覚めの領域が広がることで、より深くへ根源に降りたち、至福を得られる」と述べている。本書はすなわちリンチ流発想法であるが、その体験談と感覚の記述がとても面白いので、彼の意識が深海へダイブする様子を疑似体験できる。

文中に彼が使用する言葉はとてもポジティブで、無駄に長くない。実際の体験を綴っていても、その行間に潜む世界感がポエムのように思えてくる。

発想は無限にあふれるそうなので、そんなによい瞑想ならすぐ試してみたいと思ってしまう。本書ではTM瞑想を推薦しているので(ビートルズも実践していた)、私も日本のTM瞑想センターに問い合わせてみた。結果、私はプログラムの値段を聞いて諦めてしまった。かかる料金は年収により変化するそうだ。その後、瞑想について心得のある人達を尋ねたが、自分にあう方法でよいそうだ。

著者は統一場からのアイデアを生かし、約30年の間は作品に取り入れてきたそうだ。それまで彼は、負の環境がアイデアの元と信じており、本当にその環境に身をおいていた。芸術家の中には、彼のように怒りや憂鬱といった負の感情が表現を鋭利にすると信じる人もいる。もちろん、それらが全て作品に迫真性をもたらすものではない。今のリンチ氏は昔とは全く反対意見で、芸術家といえども快適な生活を営む必要があるはずだと説いている。確かに暗い性格の人が描く絵は、そのまま暗い画面になることが多い。

たとえ瞑想自体に興味がなくとも、表現者であれば意識下に眠る物事と現実の関連性を探り当てる本書の発想法は刺激的だろう。作家や音楽家などクリエイターにも本書はオススメだ。リンチ氏が言うには、日本では霊性と創造的知性を求める強固な伝統があり(茶道、華道、弓道、剣道など)これらは動禅、あるいは瞑想とされ悟りを目指したものだそうだ。瞑想が気になっていた人は、いちど入門として本書に目を通してみてはどうだろう。

-----【こちらもおススメ】---------

デヴィッド・リンチ展

http://www.hikarie8.com/artgallery/2012/04/post-1.shtml

『アート・スピリット』

リンチやキース・へリングが愛読し近年、日本語版が刊行された。HONZ内でも話題になったアートマインド本。2011年、HONZの今年読んだ○○な一冊で高村和久があげていた。

アート・スピリット
作者:ロバート・ヘンライ
出版社:国書刊行会
発売日:2011-08-12
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※見えない力を求めるあまり、現実ほっぽりだしては本末転倒なので、そこは瞑想ならぬ迷走しないようお願いします。とっぴんぱらりのぷう。

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