「あの作家」の秘密とは?  『推理作家の家』

足立 真穂2012年08月03日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
推理作家の家: 名作のうまれた書斎を訪ねて
4890136703

 作家はどんな家に住んでいる? 

 本棚や書斎には何が並んでいる?

 こんなことを知りたい人に捧げられた本が、世の中には数多くある。 

 たとえば今回あげるこの一冊。タイトルのままに素直に作られているのだが、取り上げている顔ぶれの豪華さには驚いてしまう。ジェフリー・アーチャー、トム・クランシー、パトリシア・コーンウェル、マイクル・クライトン、ロアルド・ダール、ジェームス・エルロイ、ディック・フランシス、パトリシア・ハイスミス、ジョン・ル・カレ、エルモア・レナードなどなど、30人のうち10人あげるだけでもこのメンツ(文末に全員の名前を入れました)。

 さて、「知らない名前ばかり」と思った人も、もう少しだけ読み続けてほしい。

 なにしろ、翻訳ミステリー好きならその作品を読んだことがある名前がズラリ。著作そのものを読んでいなくとも、著名な映画の原作者としては、間接的に知っている名前が多いと思う。

 たとえば、『太陽がいっぱい』のパトリシア・ハイスミスや『L.A.コンフィデンシャル』のジェイムズ・エルロイはどうだろう。映画のみならず、マイケル・クライトンなんぞ『ER』といったテレビドラマの基となる作品を書いている上に(『緊急の場合は』をジェフリー・ハドソン名義で)、その脚本や製作総指揮まで手がけている。こうやってあげていくときりがない。

 どうだろう?

 著者の南川さんは、パリを拠点に活動するフォトグラフィック・ライター。この本は、1982年以来54人の海外推理作家を訪ね、『文藝春秋』『EQ』といった雑誌媒体に掲載していた記事をまとめたもので、80年代の古い写真もいくつか入れた長年の単独取材の賜物だ。ビッグネームが揃っており、家に入れてもらえただけでも勲章ものである。

 実際、何人かの作家には「100通手紙を書いた」「電話攻勢をかけた」などいまどき珍しいほどの丹念なアプローチをしており、あたまが下がる。

 海外ものは読まないという人のために、日本人作家に目を向けてみよう。そう、日本の作家についても、家の中を垣間見られる本がたくさん刊行されている。最近のものだけにしぼっても多種多様。

 たとえば、角田光代や桜庭一樹、みうらじゅん、西加奈子などの本棚拝見インタビューを収録している『作家の本棚』(ヒヨコ舎編)。これなんぞ、本棚の中身が作家の軌跡としてつながっていく。文庫化までされているのは、作家自身への興味を呼ぶからか。

『書斎探訪』(宇田川悟著)は『男の隠れ家』連載の単行本化だそうだが、「男の書斎術」(とでもいうようなもの)を追っている。横浜の自宅から通いやすいと30年間新宿の高層ホテルの一室を書斎とする村上龍、地下の52畳のワンルームを書斎とする石田衣良、大学の研究室かと見間違えるほど整然とした渡部昇一の部屋、「開放感ある穴倉」をスタジオ兼書斎と標榜する松任谷正隆などなど個性豊かで、キリがない。

 変り種では、『絵本作家のアトリエ』(母の友編集部)もあげられる。「『ぐりとぐら』も『だるまちゃん』もみんなここから生まれました」――この帯コピーに惹かれて、つい私なんぞが購入してしまうわけだが、絵本作家の書斎ならぬアトリエは、どこも味わい深い。

 平凡社なんぞさすがで、「作家シリーズ」とでも呼びたい一連の作品がある。コロナ・ブックスというビジュアルシリーズで、『作家の家』のみならず、『作家の酒』『作家のおやつ』『作家の食卓』『作家の旅』『作家の犬』『作家の猫』(2まで出ており、人気らしい。作家には猫派が多いのか?)に至るまで、そうとうなる“作家好き”のようだ。

 さて、海外推理作家を扱う、今回のレビュー本に話を戻そう。

 何がとにかくおもしろいかといえば、そのスケールの大きさだろう。映画化されている著作が多いと書いたが、つまりは収入が潤沢なのか、住まいの追求の仕方もさすがの一言。

 たとえば、国際的な諜報戦を描く作風のトム・クランシー。49万坪の敷地にプール、テニスコート、ボートなどひととおり揃えつつもいちばんの自慢は「地下射撃練習場」だ。取材に訪れた南川さんも、当然のように銃を持たされるのであった。

 ほかにも、スパイ小説で知られるジョン・ル・カレは、風光明媚で知られるイギリスはコーンウォール地方の切り立った海壁の一軒屋に住み、「ここの海岸線4マイルにわたるエリアが私の土地なんだ」と微笑む。2時間ドラマで最後に犯人が追い詰められそうな岸壁で、灯台を背に小説の構想を日々練っているというのである。そりゃ小説のスケールも大きくなるというもの。写真を見ていると雄大な気持ちになってくる。

 読んでいて気に入ったのが、『太陽がいっぱい』のパトリシア・ハイスミスだ。イタリア国境に近いスイスの山村、築200年の石造りの家に住む彼女は、ジタンとゴロワーズの紫煙を交互にくゆらせながら、こうつぶやく。「『太陽がいっぱい』を書いたときは、南イタリアのアマルフィ海岸沿いの村、ポジターノのホテルに泊まっていたの」。

 か、かっこいい……。 

 名作はやはり美しき場所で生まれるのか?

 というわけで、普通にはありえない世界を堪能できることまちがいなし。作家の創作の秘密も同時に見えてくる。もしよかったら、家をのぞいた後は、ぜひとも著作を読んでみてほしい。HONZファンはあまりフィクションには興味がないかもしれないが、寝食忘れてのめりこんでしまう作品が多い。

 作家の家には、次なる読書への一手となるヒントが、山積みなのである。

参考までに、収蔵されているそのほか20人の作家たち↓

カトリーヌ・アルレー/ローレンス・ブロック/メアリ・H.クラーク/クライブ・カッスラー/ネルソン・デミル/コリン・デクスター/フレデリック・フォーサイス/ブライアン・フリーマントル/ポーラ・ゴスリング/グレアム・グリーン/アーサー・ヘイリー/ジャック・ヒギンズ/H.R.F.キーティング/アイラ・レヴィン/ギャビン・ライアル/エド・マクベイン/パトリシア・モイーズ/ロバート・B.パーカー/ジョルジュ・シムノン/ミッキー・スピレイン

作家の本棚 (アスペクト文庫)
4757220707

書斎探訪
4309021123

絵本作家のアトリエ1 (福音館の単行本)
4834027228
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら