『リブセンス<生きる意味>』新しい時代の起業家像

田中 大輔2012年09月02日 印刷向け表示
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リブセンス〈生きる意味〉
作者:上阪徹
出版社:日経BP社
発売日:2012-08-30
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「リブセンス」という会社をご存知だろうか? 私は全く知らなかった。どうやらジョブセンスというアルバイト情報サイトなどを手がけているITベンチャーらしい。早稲田大学在学中にベンチャーコンテストで優勝。ベンチャー企業を立ち上げ、2011年12月には社長の村上太一が史上最年少の25歳1ヶ月で東証マザーズに上場している。現在では時価総額でSNSの雄mixiをも上回っている。

それだけの実績があるならば、もう少し注目されてもいいと思うのだが、ベンチャーブームは去って久しく、アルバイト情報サイトという、いっては失礼だが、地味な業態もあり、マスコミではあまりとりあげられていない印象だ。

しかし、この会社を知っておいて損はない。ビジネスモデルは旧来のビジネスとは一線を画す新しさがあるし、社長の村上太一には新しい時代の起業家像がみえる。とにかく新しい時代の到来を予感させるものがあるのだ。アルバイト情報サイトと侮るなかれ。日本の未来は彼らのような若者の手に委ねられているのだから……。

アルバイト情報サイトと聞いたとき、疑問に思ったのが「どうしてそれで儲かるんだ?」ということだった。そもそもアルバイトの求人といったらリクルートをはじめとして、昔からたくさんの企業が求人雑誌や求人サイトなどを作っている。正直なところ、新規に参入する余地があるとは思えないのだが、リブセンスはあるアイデアによって、風穴をあけたのである。しかも大きな風穴をだ。アイデアさえあれば、既存の事業でもまだまだ勝負ができる。そう考えると、儲けの種はまだそこかしこにゴロゴロと転がっているのかもしれない。

リブセンスの主力であるアルバイトの情報サイト「ジョブセンス」の仕組みはこうだ。

企業は広告を無料で掲載でき、成功報酬としてアルバイトの採用が決まったときだけ広告料を払う。さらに利用者はアルバイトが決まると、ジョブセンスから最大で2万円の祝い金がもらえる。

この話を聞いたとき「これでほんとに儲かるの?」と思ってしまった。広告掲載料無料、成功報酬というのは求人をだす企業側にとって見ればありがたい仕組みだろう。異質なのは採用された側が祝い金をもらえるという仕組みである。利用者にとってはジョブセンスを使うインセンティブになるとは思うが、リブセンスにとっては、その分だけ利益を失うことになる。

儲けだけを考えたら絶対にできないサービスだが、リブセンスは、「たくさんの人に幸せを届けられるサービスでありたいから」という理由で祝い金をだしているのだという。利益より人の幸せを取ることで、売上を伸ばしている。そんなことが本当に可能なのか?と思ってしまったが、それで利益をきちんと出しているのだから事実なのだろう。なお、祝い金は成功報酬から払われており、その金額を高く設定することで、目に止まりやすいところに求人を載せられるという仕組みなんだそうだ。三方良しとはきっとこういうことをいうのだろう。

ホームページによると2011年には祝い金として総額9607万6000円を支払っている。約1億っていったいなんなんだ、この会社は?そう思わずにはいられない。まるまる利益になったかもしれないお金である。それを「顧客の利益のために」使っている。そこにはリブセンスの経営理念「幸せから生まれる幸せ」つまり、人を幸せにすることによってこそ、自分たちも幸せになれる。ということを本気で実践していることがわかる。こんな経営理念を掲げる会社が上場しているという事実は、もっとたくさんの人に知られるべきではないだろうか。

ところでベンチャー企業の社長というと、ギラギラしたイメージを思い浮かべる人も多いと思うのだけど、リブセンスの社長、村上太一にはそういったイメージが全くない。表紙の写真を見ればわかると思うが、ごくごく普通の25歳の青年である。最年少で上場したくらいだから、親が経営者だとか、海外留学経験があるとか、MBAを取得しているとか、なにか他に理由があるんじゃないの?と邪推したくなる気持ちもわからないではない。

けれど残念ながら、ほんとうにごく普通の家庭で育ったごく普通の青年である。もちろん大学入学時に事業計画書をつくっていたとか、文化祭の実行委員で100人を動かし、段取り力には眼を見張るものがあるとか、非凡な才能を持ちあわせていることは間違いない。ただ村上太一の育ち方をみていると、こんなに普通の環境で育っても起業ってできるんだ!と思ってしまったのも事実である。

もしかすると彼が日本の起業家のイメージを根底から変えていくかもしれない。起業っていうのは特別な人がするもので、普通の家庭で育った自分には関係ないと思っている人は多いと思う。もちろん私もそう思っていた。しかし彼をみていると、もしかしたら自分でもできるのではないか?と思ってしまう。なにより新しい事業を一から起こすのではなく、既存の業態でも、ちょっとだけ見方を変えたり、アイデアを加えるだけで、国内でまだまだ勝負ができるということに気づき、たくさんの勇気を貰った。

彼のような若い起業家が日本にたくさん出てくれば、日本はもう一度花開けるのではないか?そんな思いを抱いてしまった。日本という国のこれからの可能性を指し示す1冊である。

最後に関連書を幾つか紹介したい。ノンフィクションとはいえないものもあるがご容赦願いたい。

渋谷ではたらく社長の告白 (幻冬舎文庫)
作者:藤田 晋
出版社:幻冬舎
発売日:2007-08
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サイバーエージェントの藤田晋社長が自ら綴った半生記。村上太一はリブセンスの創業メンバー全員にこの本を読ませたそうだ。起業をするにはこれくらいのハードワークがあたりまえだと思っていたのだとか。さらに社会人というのは過労死するほど働くのが当たり前だと思っていたそうだ。

新装版 こんな僕でも社長になれた
作者:家入一真
出版社:イースト・プレス
発売日:2012-08-31
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