『連邦刑務所から生還した男』

成毛 眞2008年12月26日 印刷向け表示
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連邦刑務所(プリズン)から生還した男―FBI囮捜査と日本ヤクザ
作者:山平 重樹
出版社:筑摩書房
発売日:2008-12
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「自称」FBIの囮捜査で罪を着せられ、カリフォルニアの重罪刑務所をふりだしに11年投獄されていたヤクザの組長の本である。アメリカの司法は日本の常識では推し量れないところがあるが、それを主張しているのはヤクザなのだから、あえて「自称」と紹介した。著者はプロのノンフィクション作家であり、筑摩書店の本である。本書の印税が主人公のヤクザの手に渡らないことを信じて紹介する。

第1章のFBIによる囮捜査については前述どおり論評しようもない。しかし、殺人などの重大犯罪ではなく、覚せい剤取引で重罪刑務所に送られたことをみると、あきらかに日本のヤクザに対しての威嚇を意図しているのだと思われる。我が国に来ないでくれというメッセージかもしれない。

このブログで紹介する理由は、第2章以降の刑務所での話が面白いからだ。囚人の移送の話からして面白い。アメリカには100を超える刑務所がある。そのためハブとなるオクラホマ刑務所には飛行場があり、常時4機の囚人移送専用旅客機が待機しているのだという。

wikiで調べてみると、この囚人移送のためにJPATSという連邦組織が見つかる。通称コンエアーだ。映画「コンエアー」は実際に存在したのだ。この組織はボーイング727とMD-83をそれぞれ4機づつ運用しているらしい。JPATSの公式サイトを見ると、年間30万人の囚人を移送していると誇らしげだ。アメリカは壮大な犯罪大国なのだ。

主人公が手始めに送られたのはカリフォルニアの重罪刑務所である。ここには4500人の重罪犯が収監されている。終身刑や100年の刑期に処せられているような、マフィアのボスから殺し屋まで、いわゆる超重罪犯が収監されている。じっさい主人公が収監されていた5年間に10数回の殺人が所内で発生し、主人公も実際に4回の殺人を目撃している。これがまた凄惨のひと言に尽きる。

当然、刑務所の管理体制も日本の常識は通用しない。イタリア人マフィアやインディアンはそれぞれサロンを持っており、そこでは酒も美食も自由自在だ。イタリア人マフィアのサロンには七面鳥を焼くオーブンまであったという。それどころか、麻薬も手に入れば、博打もできる。刑務所そのものが立派な犯罪都市なのだ。

じつは本書を通じて主人公の人なつこさを感じ、ある意味で親近感をもってしまう。しかも主人公が属している暴力団の由来はテキヤ組織である。たこ焼き売りの任侠を重んじるテキヤの親分かもしれないとガードを下げていた。しかし、この主人公をネットで調べてみると2008年11月27日号の「週刊実話」に『極東会五代目松山直参四代目桜成会吉村光男組長主催「ニニ八八親睦ゴルフコンペ」』というモノクログラビアを見つけた。帰国後しっかり稼業にもどっているらしい。やはりコワイ存在なのだ。

ところでこのカリフォルニアの重罪刑務所をグーグルマップで見てみると、正門どころかそこへ通じる道のストリートビューはないばかりか、衛星写真でも最大に拡大することができない。グーグルは警備上の理由かプライバシーか判らないが明らかに制限を加えている。しかし、日本の小菅拘置所などはお構いなしだ。上空写真は最大まで拡大できるし、ストリートビューでは正門前に止まっている赤い車のナンバープレートまで読みとれる。ほとほとアメリカはダブルスタンダードの国だ。

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