『ラテン語の世界』

成毛 眞2009年01月21日 印刷向け表示
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ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)
作者:小林 標
出版社:中央公論新社
発売日:2006-02
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ラテン語についての入門書を読んでみようと買っておいた本だ。ラテン語を読めるようになりたいなどと、大それたことを考えているわけではない。本書はけっして難しい語学の教科書ではなく、読み物として非常によく書かれていると聞いていた。

「はじめに」ではラテン語がいかに現代でも利用されているかを説明するにあたり、「bit」を例示する。つまり「bit」は「binary」と「digit」を合成した新語であり、ラテン語の語源はそれぞれ「2つの」と「指」を表すと説明する。著者はつづけてデータ転送スピードの単位「bps」も「CPU」も全てラテン語が語源だとたたみみこむ。

「peace」が「pax romana」の「pax」を語源に持つなどという、クイズ番組的な常識が「はじめに」に記されていたら、読み続けなかったかもしれない。読みたかったのは「目からうろこ」のラテン語の話題だからだ。

「pig」と「pork」がいわゆる英語とフランス語を語源にするのは知っていたが、11世紀のイングランドにおいて、豚肉を食べる支配層のノルマン人と豚を飼育する被支配層のアングロ・サクソン人という関係からきているとやっと気づいた。大学受験は世界史だったはずなのだが、ノルマンコンクエストという歴史用語をいま思い出した。

著者は日本語は世界の例外であると言ってもよいという。文字の数と種類に限界がないからだ。文章中で漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、ギリシャ文字などなんでも利用する言語は他にないのだという。中国でもローマ字は使われるが、あくまでも商品名などだ。英語でも「anime」や「tsunami」という日本語は使われるが、必ずアルファベットに置換される。

また筆者は、日本語は1200年前の『万葉集』などを書き下し文にすれば、現代語訳しなくても理解できるという。たしかに山部赤人の「田子の浦ゆうち出でてみれば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける」なんて誰でもわかるというものだ。しかし、1200年前の英語は一般人どころか小説家でも読むことはできず、古英語の研究者のみが理解しうるという。

ラテン語のアクセントは日本語と同じく高低らしい。「橋」と「箸」のようなものだ。しかしフランス語やスペイン語などのラテン語の子孫言語と英語のアクセントは強弱だ。たしかに年をとってから英語を話せるようになった日本人の多くには妙なアクセントがあると思っていた。高低を付けていたのだ。

本書の前半はこのようにラテン語だけに固執しているわけではない。身近な言語生活から導くようにラテン語を説明してくれるのだ。後半はすこし文学部的になり、ラテン語と文学、ラテン語衰退から現代までの2本立てといった構成だ。前半だけでもずいぶん楽しめる本だ。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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