『謎解き 江戸の川柳』

成毛 眞2009年03月30日 印刷向け表示
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謎解き 江戸の川柳
作者:太田 保世
出版社:里文出版
発売日:2009-04
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昭和11年生まれの医師が書いた本である。江戸川柳を数100本紹介しながら、句の意味を考えるという趣向だ。帯には「江戸川柳の謎解きで、頭の体操!!」と元気が良い。「まえがき」でもさかんにセロトニンやドーパミンなどの脳内物質の名前を掲げたりして、本書が脳に良いと売り込み文句が並ぶ。この時代の知識人は本を単に楽しんで読むことができないのであろうか。実用性がないと後ろめたい気分になるのであろう。

さて本書から「鍋ぶたと釜のふたとでいぢり合」。一見すると男女の秘め事のように見えるが、この場合の「いぢりあい」というのは「苛め合い」、つまり喧嘩や合戦のことなのだそうだ。鍋蓋には把手は1本、釜蓋には2本。丸に一引きの紋は新田氏。丸に二引きの紋は足利氏の紋。つまり、この川柳は足利氏と新田氏の戦いをもじっているのであるという。

じつはこの句が一番簡単なほうなのだ。ほとんどの句は当時の常識、世相を反映しているため解釈には江戸の知識が必要だ。たとえば「相撲好き女房に羽織ことわられ」という句がある。これは当時、贔屓の力士が勝つと羽織を土俵に投げ入れ、後刻その羽織と交換に金子を支払ったからだというのだ。この句でも簡単なほうだ。つまり、本書1冊でかなりの江戸風俗を実践的に楽しむことができる。もちろん、川柳お約束の色物も多数取り上げられている。

じつは「川柳」は景品付きの投稿雑誌の主催者だった人物の名前だ。いまのナンクロ雑誌のようなものだった。お題としての「前句」という7・7の句が柄井川柳から提示され、参加者はそれに合う5・7・5の句を作り、参加費16文を添えて提出する。集まってきた句のなかから柄井川柳が勝句を選ぶ。そして勝句の作者は500文あまりの木綿一反を獲得するというシステムなのだ。佳作でも24文もらえたらしい。もちろん、選ばれた句は集められ『俳風柳多留』という本にして別に販売されていた。この柄井川柳は亡くなるまでの33年間に260万句を撰したというのだから、じつは巨大出版ビジネスだったのだ。

提示される前句の例としては「切りたくもあり切りたくもなし」があり、それに対して提出された句は「泥棒を捕えてみれば我が子なり」などとなる。この後の句を独立させたのが川柳だった。江戸時代にはほかにも趣向を凝らした千社札を交換する会などがあったのだが、これについては別に良い本が出版されているので、いつか紹介してみよう。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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