『トルコ 世界一の親日国』

成毛 眞2010年02月24日 印刷向け表示
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外形的な本の作りだけを見る限り、自費出版にしか見えない本だ。しかし、帯にもあるように「ヒゲの殿下」こと日本・トルコ協会総裁でもある寛仁親王の推薦もあり、明成社から出版されたようだ。個性的なこの出版社にしては、内容は右寄りでも、皇室礼賛でもない。いわばトルコを絶賛した本である。

著者は元伊藤忠商事の中近東会社会長だ。トルコのプロの回顧録だ。普通のビジネスマンの回顧録とちがうのは、著者が劇的な事件に遭遇したことだ。1985年のイラン・イラク戦争である。このときイランには200人を超える日本人がいた。サダム・フセインは「イラン領空を通過する航空機は民間人といえども安全を保障しない」と宣言していた。

この緊急時に救出機を出してくれたのがトルコである。しかも自国民の救出よりも先に日本人を救出したのだ。この驚愕の決断をしたのは当時のオザル首相本人だった。じつはオザル首相と著者は長い間の友人関係にあった。著者はなんと首相に直談判をしていたのだ。

本書にはないが、外務省はトルコが救出機を出したのは、野村豊在イラン日本国特命全権大使がイスメット・ビルセル在イラントルコ特命全権大使に救援を要請したからだ、としている。複数ルートを使ってトルコに要請していたことは事実だろうが、著者は首相に直接電話をしてお願いしたうえに、数時間後に首相本人から救出機を出すという電話をもらっているのだ。これが決定打になったと思われる。

これも本書にはないが、このとき日本航空の経営陣は、5か月後に御巣鷹山で亡くなることになる高濱雅巳機長を飛ばそうと考えていたようだ。しかし、労働組合の反対で実現しなかった。ナショナルフラッグ・キャリア、つまり国旗を背負った航空会社と組合員が、国旗とプライドを捨てたあとにたどった一本道は破滅であった。

ともあれ、トルコがなぜここまで親日的であるかを教えてくれるのが本書の後半である。もちろん、救出にあたっては著者と首相の親交が重要だったことはいうまでもないが、その基調となる深い関係が両国にはあったのだ。著者はエルトゥールル号事件、日露戦争、明治天皇、朝鮮戦争、近年の工業化の5点を挙げている。それぞれのエピソードは大きくはないのだが、好印象が累積する効果は、時を得て人の命も救うのだと感心してしまう。

ちなみに2006年、日本政府は11名ものトルコ人への叙勲を行った。小泉元首相の決断である。イスタンブル(本書表記)では、のちに大統領となり亡くなったオザル首相の未亡人に感謝状が贈られている。日本人としては、素直に小泉元総理に感謝したいところだ。

なぜか「あとがき」だけにカラー写真が使われるような体裁をみても、本書はプロによるものでではない。しかし、著者の思い入れがたっぷり詰まっていて、いろいろ考えさせられる材料を提供してくれる。ともあれ、次の旅行ではトルコに寄ることにした。

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