『酒とつまみ チャンポン』 朝っぱらからスミマセン

栗下 直也2012年11月20日 印刷向け表示
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酒とつまみチャンポン―創刊10周年記念なんちゃって傑作選 (別冊酒とつまみ 1)

酒とつまみチャンポン―創刊10周年記念なんちゃって傑作選 (別冊酒とつまみ 1)

  • 作者: 酒とつまみ編集部
  • 出版社: 酒とつまみ社 (2012/09)
  • 発売日: 2012/09

一部のオジサンに熱狂的な支持を受ける雑誌「酒とつまみ」。というよりも世間一般には知られていない雑誌「酒とつまみ」。

創刊10周年を記念しての傑作企画をまとめたのが本書だ。雑誌不況の荒波の中で10年とはすごいの一語だが、季刊誌を名乗りながら一度も季刊できていない脱力ぶりがその秘訣か。季刊だけど季刊は無理です。でも季刊の看板は下ろしません。「心は季刊誌です」というこの無駄な努力をしないところがグダグダな酒飲み達にはたまらない。

不定期発行らしい「酒とつまみ」の肝心の中身だが、簡素な表紙と無駄を省いたタイトルからは、薀蓄まみれの内容を想像してしまうかもしれない。だが、ページをめくれば杞憂に終わるのがこれまでの「酒とつまみ」。同誌の既刊分を思い出深くめくってみたが、いや、本当は全く覚えてないのでめくってみたが、酒好きな著名人へのインタビュー、各種突撃と言うよりも単なる思いつき企画、外国人パブの取材、酒場の話の盗み聞き、読者の泥酔自慢など新橋臭がぷんぷん臭ってくる企画が全体の7割。残りの3割は料理研究家の瀬尾幸子さんの「つまみ塾」や意外に勉強になる「小説の中の酒」といった連載などなど。この「賢そうな」3割が「よれよれ」の7割を支える構図。7:3の絶妙なバランスが世のオジサン達を惹きつけてきたのだ。(といっても一部だけど)

10周年特別号も同じような構成かと思い読み始めると驚愕の事実に直面する。何とも大胆にまじめ「3」をぶった切り、全力でぐだぐだに振れている。「つまみ塾」も「小説の中の酒」もない。どこを見てもない。加えて、中島らもなど泥酔著名人へのインタビューや、中央線沿線の各駅でホッピーをただただ飲み倒す「ホッピーマラソン」いう伝説企画はすでに書籍化されているため、今回は収容していない。おそろしいほど、品があるコンテンツが皆無だ。飛車角どころか金銀桂馬も落ちているんじゃないか、大丈夫か、記念特大号と思わずにはいられない。人間に例えるならば、「泥酔よれよれオジサンが介抱する人もいないで道ばたにヘタレ込んでる状況」だが、ぐだぐだのべろべろの7割で圧巻の256ページを構成してしまっている。出してしまったものは仕方がない。世にも人のためにもならない内容が満載なわけだが、全くためにならないことを全力でやる姿勢がなんとも美しい。

その美しさを感じずにいられないのが創刊号から掲載している「思いつき研究レポート」。紙パックの一号酒のストローの長さを測ったり、飲み残して長時間放置したビールほどまずいものはないが「どの銘柄がマシか」を調べたり、ホッピーを割るのに最適な酒を探したり、大抵ひとくくりにされてしまう柿の種や魚肉ソーセージの違いを調べたり、身の回りの酒以外の物のアルコール度数を片っ端から調べたり、挙句の果てには、ビールの味ではなく缶の重さや泡の飛び出し量をはかったり・・・。

酒をあまり飲まない人からすれば「何でそんなことしているの」と聞きたくもなるだろうが、それは正しい。おそらく何にもならない。 自分では確かめたくないが、知っていたらもしかしたら役に立つかも、でもたぶん使うことのない小ネタをひたすら提供してくれる。「身の回りのアルコール度数調査」ではソルマックにお酒が入っているという無知な私は知らんかった情報を教えてくれる。「もう酒なんかのむか」と捨てぜりふを吐きながら、二日酔いの朝、知らずに迎え酒してたなんて。

少し持ち上げれば、これらの企画の底流には「酒は一滴たりともムダにしません」という酒飲みが誰もが持ち合わせる「もったいない」の思想が透けて見えるかもしれない。ストローが長ければ隅の隅まで「鬼ころし」を飲み尽くせるし、ビールも劣化度合いが少なければぐびぐび飲める。缶から噴き出す泡が少なければ「あっ、こぼしちまった」と当然ならない。ちなみにストローが15センチと最長なのは月桂冠の「定番酒つき」で飲み残しビールが劣化してもうまいのは「エビス」、泡の飛び出し量が6グラムと最も少ないのは「モルツ」である。

「酒とつまみ」の素晴らしいころは読んでいる内に、なんだか自分も参加したくなるような距離感だろう。実際、読者参加コーナーは数あるが、品がなさすぎる川柳コーナーが読ませる。朝っぱらから下品で書きたくないが、いや、本音は太字で書きたいくらいなので、ここまで読み進めたHONZ読者の方は「下品上等」だという前提で伏せ字の上、こそっと書いてしまおう。

「 俺はゲ● 青空球児はゲロゲーロ」など親父ギャグ満載がほとんど(そもそも青空球児を若者は知らんぞ、きっと)だが、考えさせられる句も少なくない。

 「ゲ●をしても ひとり」      

自由律で20代女性がひとり詠った一句だ。彼女の生い立ちから今、そして最大の謎はなぜその思いをこの雑誌に投じたのか。『女性自身』ではダメなのか。受け皿がないのか。読んでるこっちも飲まずにはいられなくなってしまう。

 

酒とつまみの編集に関わった人々はこの十年で変化を遂げたとか。元々、フリーランスを中心に本業の傍ら始まった雑誌だが、事務所を引き払ったりする人もいるなど、酒とつまみに飲めりこんだがために、なんだか大変なことになった人もいるもようだ。それでも何事かもないように全力で酔っぱらい人生を謳歌しようという姿勢は変わらない。字がごまつぶのように小さいのも創刊以来かわらない。編集センスがあるようでないようで、商売意欲もあるようでないようで。読めば読むほど、わからなくなるが、読めば読むほど清清しい気持ちにもなる。飲んだ後にはない、スッキリ感。余計なお世話かもしれないが、「酒とつまみ」の次の10年が心配なような、期待したいような不思議な一冊。本業の傍らといえば、我らHONZも今後、どうなるんだろうねとふと思ったり。

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創刊者の大竹聡氏の抱腹絶倒のエッセー 

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