『文藝春秋』 (今月買った本) 07年6月原稿

成毛 眞2010年03月29日 印刷向け表示
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今世紀で人類は終わる?
作者:マーティン リース
出版社:草思社
発売日:2007-04-24
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キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌
作者:シンハ・ヤコボビッチ/チャールズ・ペルグリーノ
出版社:イースト・プレス
発売日:2007-06-20
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バチカン・エクソシスト
作者:トレイシー ウイルキンソン
出版社:文藝春秋
発売日:2007-05
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反省 私たちはなぜ失敗したのか?
作者:鈴木 宗男/佐藤 優
出版社:アスコム
発売日:2007-06-15
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工場萌え
作者:大山 顕
出版社:東京書籍
発売日:2007-03-01
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「竿だけやはなぜ見た目が九割か?」などという本はない。当時流行っていた書名を皮肉って作った仮想的な本である。

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今月は表紙を見るかぎり、いかにも怪しげな本を何点か買った。昨年は「竿だけやはなぜ見た目が九割か?」などというような疑問文形式のタイトルが流行っていたが、今月の本は別の意味ですごい。

『今世紀で人類は終わる?』は翻訳本である。その原題は「Our Final Century?」だから「今世紀で人類は終わるのか?」ではなく「終わる?」で止めるのが正解なのだろう。しかし、いきなり読者に聞かれても困る。著者の自問だとすると、本当に人類が終わってしまいそうで怖い。各章のタイトルも「科学実験が宇宙を破壊する?」とか「だれでも世界を滅ぼせる時代」などと挑発的だ。

とりわけ怖いのは、インターネット上には致死性のウイルスのDNA配列情報が公開されており、それをダウンロードしてウイルスを合成することのできる科学者が世界に数千人もいるという事実だ。もしも、狂った独裁者の手に渡ったら本当に人類は滅亡するかもしれない。

著者は顕職を歴任したケンブリッジ大学の宇宙物理学教授であり、内容は信頼がおける。ところで、インターネットでイメージ検索をしてみるとこの教授、じつにハンサムだ。鉤鼻白髪のいわゆる英国紳士なのだ。誰かに似ていると思ったら、同い年うまれの小泉元首相だった。ちなみに1942年の同級生には他に金正日将軍やカダフィ大佐などがいる。

この出版社がこの著者で、しかもこのタイトルで発行するから怪しいという本もある。『キリストの棺』は雑誌「恋運暦」の出版社が版元だ。霊能業界ゴシップ事件簿などという記事が載っている雑誌である。しかも本書のサブタイトルは「世界を震撼させた新発見の全貌」とあるのだが、最近だれかに震撼された覚えはない。序文は映画エイリアン2やターミネーター2の監督であるジェームス・キャメロンだ。ハリウッド製オカルトミステリーの匂いがぷんぷんしてくる。

ところがこの本、ドキュメンタリー映像作家としてのキャメロンが参加し、ディスカバリーチャンネルなどで放映した番組の書籍化であり、少なくとも映像的には事実であることを追ったドキュメンタリーなのだ。もっとも驚くほど大胆な結論は推論でしかない。その結論とは筆者たちはキリスト一家の墓を発見したというものだ。

キリスト本人も聖母マリアも、『ダビンチコード』で有名になったマグダラのマリアも、キリストの息子とされるユダも同じ墓に葬られていたという内容である。本書の原題を直訳すると「キリスト家の墓」である。なるほどそんなタイトルにしたら、日本では一冊も売れなかったかもしれない。

『キリストの棺』の隣で平積みになっていた『バチカン・エクソシスト』も一見すると怪しい本だ。タイトルも、装丁も、帯のキャッチフレーズも、バチカンをテーマとしたサスペンス小説だとしか思われない。カバーの扉でも「法王は言った。『悪魔は実在する』」とたたみかける。エクソシストなんているわけがないではないか。

ところが、本書は全て現実のことなのだ。実際にエクソシストはバチカンだけではなく、イタリア中に存在するし、実際に悪魔祓いは頻繁に行われているらしい。国際エクソシスト協会すら存在する。訳者によると映画「エクソシスト」もカトリック教会の正式な協力を得て制作された。そもそも映画エクソシスト以降、世界中で悪魔祓いの需要が高まったらしい。ちなみにキリストへの冒涜ともとられかねない『キリストの棺』の著者たちのところにはエクソシストはやってこない。なぜなら、かれらはユダヤ教徒だからだ。

『反省 私たちはなぜ失敗したか?』の出版社の売れ筋書籍には『働かないで五一六〇万円稼ぐ法』、『洗脳力』、『儲かる会社のすごい裏ワザ』などがある。お叱りを受けるかもしれないが、そんな出版社で鈴木宗男と佐藤優が反省していて大丈夫なのだろうかと思ってしまう。ところがこの出版社、NHKの「英語でしゃべらナイト」や「ためしてガッテン」などのシリーズも出している。結局なんでもありなんだ。

本書の中で二人は「外務官僚の無能さが私たちの理解を超えていた」ことを反省したり、とはいえ外務省が「共産党に外交秘密を流すほどの謀略能力を持っていたことを予想していなかった」ことを反省したりしている。ほめ殺しならぬ、反省攻撃である。攻撃対象の外交官は実名写真付だ。

筆坂秀世も対談に参加している。この人はチークダンスをしてセクハラを問われ日本共産党を離党したはずだが、いまや党批判の論客になりつつある。それぞれの権力側は三人を軽く見すぎたのだろう。人を見る目のない権力は自滅するのが当然。

『工場萌え』のタイトルも怪しい。内容も巨大な工場風景を写真集としてまとめてあるだけだ。後半に工場鑑賞ガイドという章があり、工場への行き方、鑑賞ポイントなどが丁寧に書き込まれている。この本を買う人の条件チェックリストが帯に十九項目書いてある。「フレアスタックを見ると興奮する」、「原料ヤードは最高だと思う」などだ。このうち十一個に丸をつけてしまった。千九百円もするのに、本書はすでに第五刷である。

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