『日本人の肖像 二宮金次郎』

成毛 眞2010年04月01日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
日本人の肖像 二宮金次郎 (角川叢書)
作者:岩井 茂樹
出版社:角川学芸出版
発売日:2010-02-10
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

「あとがき」によれば、著者は幸田露伴研究をしているうちに、二宮金次郎に興味が移ってしまい、本書をものにしたらしい。幸田露伴が『二宮尊徳翁』の口絵で、朱買臣の図像と苦学する金次郎の姿を結びつけたことを発見したのが発端だった。

その朱買臣と二宮金次郎とは何だったのかを丁寧に調べ上げたのが本書である。朱買臣とは前漢時代に実在した人物である。また二宮金次郎とは江戸後期の農政家である。書画に趣味のある人以外は、本書を読むまで朱買臣は知らないであろう。しかし、中高年であれば小学校の校庭などに二宮金次郎の銅像があったことを記憶しているかもしれない。

本書の4章まで、およそ80%ほどは朱買臣と二宮金次郎の図版の発生とその流布についての研究成果である。一見して書画研究だ。狩野派の各分派における朱買臣の取り扱いについて詳しい。図版が非常に豊富で、筆の進みに迫力がある。

5章はそれまでの章とはまったく別だ。明治以降に金次郎の銅像がもつ意味を探っている。江戸期には朱買臣は薪を背負っていても故郷に錦を飾った人物として扱われていたが、明治以降の薪を背負う金次郎は出世よりも努力を体現するようになったというのだ。すなわち、立身出世の可能性が低くなるにつれ、金次郎の肖像は流布したのだという。

著者は「あとがき」のなかで本書を書いて精神的に楽になったという。商売人の長男として生まれた著者は「精一杯やってもだめならしょうがない。結果は二の次だ。努力こそ尊い」「平凡に生きることこそ、もっとも難しいのだ。大きな夢を見るな」ということを言われていたという。その言葉の裏にある閉塞感を本書を書くことで打ち破ることができたというのだ。

この思想は現代日本にも脈々と生きているを思う。はからずも立身出世をした人は「自分がいかに努力したか」を表現できなければ、闇に落とされることになる。苦労と努力の逸話を作りながら成功に向かう必要がある。その社会思想は強固であり、批判することは無駄な努力としか思われない。

ところで現在、二宮金次郎の銅像はタイやアメリカ、南米でも見ることができるという。一種の仏像として取り扱われているらしい。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら