『「忠臣蔵」の決算書』新刊超速レビュー

成毛 眞2012年12月14日 印刷向け表示
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「忠臣蔵」の決算書 (新潮新書)
作者:山本 博文
出版社:新潮社
発売日:2012-11-16
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12月14日は赤穂浪士討ち入りの日だ。当日は江戸の冬らしく晴れだったらしい。旧暦は太陰暦だから毎月15日は満月だ。当然月明かりだけで仕事ができたであろう。しかも、吉良上野介はその日茶会を開いていて在宅であることが確定していた。大石内蔵助ならずとも「上野介、ぬかったな!」と声を掛けたくなる。それほどに赤穂浪士の欺瞞工作が上手かったということでもある。

ところで、浪士たちが実際に吉良邸に討ち入ったのは旧暦だから、いまのカレンダーに変換すると2013年1月25日だ。同様に大石内蔵助が残していた『預置候金銀請払帳』という古文書を現代の決算書に変換してみたのが本書である。じつはこの古文書を底本として1998年に『金銀忠臣蔵−仇討ちの収支決算』という本がすでに出版されていた。すでに絶版になっていて古本には1万円ちかいプレミアムがついているレア本だ。これだから新刊を読み終わったからといって、古本屋に売る気になれないのだ。

さて、本書は『金銀忠臣蔵』にくらべて少しお固い印象があるものの、赤穂藩お取り潰しの精算処理、軍資金と浪人生活、討ち入り計画の支出項目、討ち入りの収支決算の4章で、赤穂事件のリアリティを読者に伝える。たとえば、第1章「お取り潰しの精算処理」では藩士の階級システム、知行や切米などの給与システム、藩札とその償還方法などが概観できる。

意外にも藩がお取り潰しになったときには、藩士たちが自ら処分して分け合う事ができる資産と、幕府に返納するべき資産の2分類があるという。つまり、各藩は幕府から城や領地という資産を借用して生業をたて、期間中に増加した分は固有資産ということになるのだ。これをバランスシートの観点から見るともっと面白いであろう。

お取り潰しにあって大石内蔵助たちは、まず藩札の償還手続きをし、資産分類をしてから固有資産を売却し、各藩士に退職金を支払った。藩札の償還と書いたが、考えてみると藩札は兌換紙幣でもありゼロクーポンの個人向け地方債でもある。赤穂藩のデフォルトによる分配率は60%であった。資産売却にあたっては藩が所有していた17艘の船を現代の金融でいうところのバルクセールス(まとめ売り)にかけている。用語さえ変えれば現在の会社精算手続きとそれほど大きな差はない。

ところで、本書にところどころ出てくる古文書の書き下し文で気になった一文は

「是よりは毎度御無音に打ち過ぎ、染々と書状を以て申し承らず候処・・・」

現代語訳すると

「こちらからはいつも音沙汰なしで、書状も送りませんでしたが・・・」

というものだ。この書状の送り主と同様に筆不精だから、書き留めておいた。

関係各位、おのおの方、本年一年もご無音の段、平にご容赦。

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