愛情たっぷり『書店員あるある』

新井 文月2012年12月17日 印刷向け表示
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書店員あるある
作者:書店員あるある研究会
出版社:廣済堂出版
発売日:2012-11-27
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本屋が好きな人なら、この一冊は終始笑えて楽しめる。

表紙のイラストは、ゴルフ本を読んでいるおじさんの“スイングしたいのを我慢してはいるが、身体が微妙に揺れている”図である。

あるあるネタとは、日常生活で身の回りの些細なことを挙げ、読む人に共感を得て笑いを誘う技術であり、古くは枕草子もこの形式をとっていた。書店員からすればゴルフ姿のおじさんも話のネタであり、さらに「本を持つ手がグリップの形になっている」などたたみかけるような報告例があがってくる。

著者は実際に東京郊外で働く書店員歴17年の店長だ。ツイッターで「今日こんなことがあったんだけど」的にあるある話をつぶやいていた所、全国の書店員も同調しこぞって笑いや苦労ネタをアップしてきた。すると軽く400を超える数になり、今回出版の流れとなったらしい。本書最大の魅力は、純度の高いネタが膨大に掲載されている点だ。

まずあるあるレベル初級では

おつりは受け取って、買った本を忘れる

あるある!私も忘れるし、そういったビジネスマンも何度か見た事がある。(なぜかできる風)

あるあるレベル中級(意外に困る質問)では、

少年が修行を積んで敵を倒す名作マンガ、ありますか?

遠い!どうやら息子のために探しているらしいが、「ド○ゴンボール」ですか?と聞いてみると「それではないんだよ!」と返答。他にも「最後に泣けるスポーツマンガ」「絵がかわいい少女マンガ」などと、親の質問はいつもゴールが遠いようだ。本書にはシュール感漂う絶妙なイラストが一緒に掲載されているので、是非そちらでもニヤニヤしてほしい。

書店員にとってお客様の注文はハードルが高い。レジの際、会計済の本をビニールに入れテープまで貼ってから、「ビニールはいらないです」と言われたり、中には「カバーも帯も全部捨ててください!」というケースもあるようだ。(表紙のデザインもイマイチの場合)しかも書店員の仕事はお客様対応だけではない。レジでの接客、新刊の品出し、返本まとめ、取次への注文、ポップ制作など多岐にわたる。ぱっと見の印象とは違い、かなりの体育会系なのだ。

そんな中、お客様にこんな感想を持つ書店員も

整理術や断捨離の本をまとめ買いする女性客をみると、

「この人は片づけられないな」と思う

そうだよね。素直に同意してしまう。他にも体型はガリガリなのにダイエット本を買いまくる方にも大丈夫か!?と、売上はさておき思うらしい。

しかし、そんなお客様に書店員はナイスプレーを連発していく。

お客様「トウノケイゴの本、ありますか?」

書店員「はい、トウノケイゴさんの本はこちらです!」

気分を損ねないよう、作家名の読み方を間違えているお客様の言葉もそのまま復唱し案内するのだ。またカバーの背に描かれた登場人物で何巻かわかるなど、ファインプレーは続く。そして休日でも他店の本屋に入り、習性的に棚の乱れが気になるとつい棚整理をしてしまうそうだ。なんて本への愛情あふれているのだろう。しかしやりすぎる場合も多々あるらしく「○巻がありませんでしたよ」と他店の書店員に報告したりするらしい。

本書のプチコラムでは、版元や取次、ISBNなど間に挟む業界用語集も紹介している。立ち読みと汚れ防止のため、ビニールパッケージすることをシュリンクといい、またその機械をシュリンカーというそうだ。さっそく通ぶって使ってみよう。

その他、事務所でランチ中、仕切りの向こうから万引き犯の取調べが聞こえてくる、など冷めたランチがさらに冷たくなりそうな話も掲載されている。万引き関係のネタも多く掲載されているが、本一冊が万引きされると書店はコストを回収するのに、同じ本を20冊売らないといけない。

実は書店員の時給は、最低賃金ランクなのだ。それに加えて、キラキラネームの作家名が読めず戸惑ったり、立ち読みしていた本に向けてクシャミするおじさんを見て泣きたくなる事もあるらしいが、そんな様子は全く見せない。お客様からは「ここが汚れているので取りかえたい」と指をさされるが、肉眼では判別できないケースも多数あり。児童書コーナーにいたっては1時間に1回は巡回しないと、目もあてられないほど荒れてしまう。そして片付けていると、営業に来た人が「これはA書店で1位の本なんです!」とプッシュしてくる。じゃあそこで売ればいいじゃん!そんなドタバタの最中に、レジでバーコードがなかなか読み取れずにいると、「じゃあココは?」と自分の頭をさしてくるお客もいるらしい。

そして今日も読みたい本をお客様に届けるため、書店員は奮闘している。

本屋は面白ネタ満載なので、つい応援したくなる一冊。

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あるあるシリーズは、ツイッターから広がり、全国より面白ネタが集まる場合が多い。私は別に吹奏楽部ではないが、他のクラブにはない不思議な世界を垣間見れるので本書はイチ押しで推薦。絶対数が少ない男子部員はモテるらしい。

吹奏楽部あるある
作者:
出版社:白夜書房
発売日:2012-04-23
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こちらも推挙。別に野球部でもないが、逆に部活内が想像つかないので新鮮に読める。うっかり自分のユニフォームの背番号の縫い方を失敗すると、プレー中相手チームに「背番号の位置が低い奴」とか呼ばれるそうだ。

野球部あるある
作者:菊地選手(『野球小僧』編集部)
出版社:白夜書房
発売日:2011-09-10
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