特殊撮影『ワンダー・フォトグラフィー』

新井 文月2013年01月07日 印刷向け表示
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ワンダー・フォトグラフィー (コマーシャル・フォト・シリーズ)
作者:久門 易
出版社:玄光社
発売日:2012-12-17
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本書には2013年現在、最も高度な最新技術で撮影された画像が掲載されている。月刊コマーシャル・フォトに連載された人気連載「特殊撮影見聞録」の4年間分をまとめて1冊に再編集したものだけあって、内容が濃密だ。

撮影ジャンルは最先端技術による宇宙撮影から限界ギリギリの深海、超望遠から超マクロ、X線や赤外線撮影に至るまで多岐にわたり紹介しており、超最先端画像のこれら全てをフルカラーで体験できる。

掲載されている画像には、すべて問い合わせ先とURLがあるので、リンクをたどっているだけでも充分に楽しい。どのカテゴリも特殊な撮影で、かつ映像に情熱を注ぐプロフェッショナルの臭いがぷんぷん漂うが、その中でも特に芸術性が高く印象に残った3点を伝えたい。

その1.優れた結晶写真。白金族の重鎮、ルテニウム結晶。

(C)結晶美術館

ルテニウムは六方最密の構造で六角板状の結晶だ。実際にはエッジが削げて、緑鉛鉱のような結晶にも見える。大きな結晶はところどころ骸晶気味だ。天然でも単体で産し、端成分に近いルテニウムが発見されたのは北海道の河川で、日本の新鉱物の一つでもある。古くはルテノスミリジウムという名で、万年筆のペン先などに用いられることもあるそうだ。

結晶の撮影方法は対称・光沢・形・立体感を余すことなく伝えるため、レンズの選定後にライティングを施し、被写界深度合成を行う。結晶美術館オーナーである田中陵二氏は撮像センサー上で2〜10倍程に拡大する撮影を専門とする。一般的なマクロレンズは等倍撮影が限界になるし、顕微鏡では被写界深度が浅すぎるらしい。実は氏は工学博士であり、この活動は副業らしいが、「好き」というエナジーは未知数で偉大なアウトプットをもたらすあたりがHONZにも共通するところか。他にもガーネットなど本当に美しい結晶ばかりなので、知らなかった人はぜひ結晶美術館のサイトで超絶マクロ撮影の結晶画像を堪能しよう。

その2.魂の意をもつ電波望遠鏡「ALMA」

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

これはALMA望遠鏡が実際に観測した、死にゆく星の姿だ。星が死んでいくときにはガスをモヤモヤと噴き出すが、そのガスが渦巻き状に宇宙に広がっていく様子が克明に描き出されている。ALMAはこれまでの電波望遠鏡が捉えられなかった淡いガスの細かな分布まで撮影することが可能となった。電波望遠鏡「ALMA」は南米チリ共和国にあるアタカマ砂漠にあり、日本の国立天文台が欧米の研究機関と共同で運用している。普通の望遠鏡では星々の間は真っ暗にしか見えず、その部分は真空であるかのように思われるが、この真っ黒な部分にも見えないガスや塵が存在し、そこからはさまざまな電波が出ている。この電波を観測することで、ガスや塵の量や広がり方などを調べることができる。

ALMAは宇宙からの電波を捉えることが可能で、パラボラアンテナの直径が大きいほど弱い電波を捉え、解像度も高くなる。長野県の野辺山に作られた望遠鏡は45mもあり世界最大なのだが、悲しいことに湿潤な風土は測定に限界があった。そこで直径20kmの平地、年間降雨量100mm以下という地球上最も電波観測に適したアタカマ砂漠を見つけ出し、2001年には国際プロジェクトとして世界規模で共同開発が始められた。このプロジェクトは直径12mのアンテナ54台、直径7mのアンテナ12台の計66台を設置した大掛かりな装置だが、鏡面精度は2/100ミリメートルと髪の毛一本ほどの誤差しかない。このうち16台が日本製だ。

最新理論と究極の工作技術を結晶させた望遠鏡は、人類がこれまで見ることができなかった宇宙の謎に挑むことができる。

その3.小型生物を化学的に透明にする透明標本

Copyright (C) New World Transparent Specimens/Iori Tomita

標本という印象からはあまりにもかけ離れた印象だ。本来、透明標本とは生物学の研究に使われている技術で鑑賞目的ではない。赤外線で熱を可視化したり、X線を使って骨格を見るのと同じで、見えない対象を可視化する技術のひとつだ。だが鮮やかな精密画のように新たな色彩世界が開かれている。

この標本作りは、まずホルマリン漬けから始まる。これによりタンパク質の組織を固定する。この処理が終わってから、タンパク質を溶かす酵素を使い1〜2週間phや温度を一定に保つことで、組織が透明になってくる。着色方法は決まっていて骨格は赤紫、軟骨は青色に染色していく。黄色に見える部分は、元もとの体色などだ。骨格研究の手法として確立された形態から、この美しい色合いと造形にするためには長い月日と技術を要するらしい。

透明標本の作者である冨田伊織氏は、この命の美しさをより身近に感じてほしく作品を制作しているそうだ。元々の標本や資料としてだけでなく、芸術やアートとして、哲学の世界の扉として、今までにない新しい世界を投影してもらえればという情熱から活動を続けている。

本書ではその他にも1ショットで360度パノラマ画像を撮影できる「全方位ミラーシステム」や、氷点下40度の酷寒に耐えるオーロラカメラ、実物に触れもせず2/1000ミリレベルで3次元立体形状測定データを作り出すリバースエンジニアリングなど科学成果の全貌を一挙紹介している。これらは一つのレンズから美しい造形作品を見ているようで、特殊撮影の最先端技術には驚くばかりだ。ただ眺めても楽しいが、写真を趣味としている人、写真を表現の一部と考えている人には特にオススメ。

美しくも不思議な世界をご覧あれ。

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『透明な沈黙』

ウィトゲンシュタインの魂の言葉と、透明標本の生命観が融合をめざしたスゴイ企画。

透明な沈黙
作者:
出版社:青志社
発売日:2010-08-09
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ニコン・スモールワールド・コンテスト

顕微鏡内で繰り広げられる造形美。こちらのサイトでは過去のコンテスト受賞作を閲覧できる。

(応募も可)

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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