死ぬまで「現役」が当たり前?『男の壁』

栗下 直也2013年01月10日 印刷向け表示
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男の壁 ED患者1130万人時代を生きる
作者:工藤 美代子
出版社:幻冬舎
発売日:2012-11-22
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「欲しがりません、勃つまでは」。

新年早々、自らの人格を疑ってしまう書き出しだが、学生時代に読んだ夕刊紙だか実話系雑誌の性に関する特集でのフレーズを時々思い出す。「パートナーが不能になった場合、どうするか」。そんな質問に応じた女性が冒頭の台詞を述べていた。オッサンが好きそうな駄洒落だけにデスクか記者の妄想のような気もしなくもないが、納得したものだ。世の中、無理なものは無理。勃たないものは勃たない。待つしかない。だが、時代は変わったのか。本書の帯には「死ぬまで現役がもはや、当たり前!」とデカデカと書いてある。21世紀の今、男は勃たぬことをなかなか許してもらえないらしい。

「男性の不能」は手垢まみれのテーマだろう。書き手が男ならば見向きもしなかっただろうが、女性、それも、重厚な評伝などを手がける一方で、熟年期の性に迫ってきた著者の作品となれば別だ。更年期の性を扱った『快楽』や熟年離婚と性の関係を取り上げた『炎情』。そして『快楽2』。これらの作品は何歳になっても生と性は切り離せないことを提示する。果たして、その切り離せない生と性が「不能」に襲われたら。内外のED治療の今を追いながら、「不能」が老年に差し掛かりつつある男女の関係に何を及ぼすかに女性視点で迫ったのが本書だ。

パートナーが「不能」になった60歳を過ぎた友人女性と著者の軽妙な会話を軸に進行する。「この世の終わりだ」と嘆く友人に対して、「その年齢になってまだまだしたいの?」と冷めた視線を浴びせ続ける。複数のパートナーや夫婦の「不能」を取り巻く話には正直、「どんだけスキなんだよ」と違和感も覚えるが、著者も同様に取材対象者と適度な距離を保つことで、ED人口1130万人とも言われる日本のED事情の今を浮き彫りにする。

国内はもちろん、アジア各国にもED治療の調査に飛ぶ。何でアジアに飛ぶのかは実は論理展開上は謎なのだが、著者が夫から「恥ずかしいから日本でED取材を積極的にしないで」と懇願されたのが理由のひとつらしい。そもそも老年男女と「不能」との関係に興味がなくても、アジアのED治療事情をパラパラと読むだけでも本書は実に面白い。

アメリカと並ぶED治療の先進国である韓国では玉袋に器具を埋め込み、その器具のボタンを押すと勃つ手術に遭遇する。感度は十分らしく射精もできる。値段は150万円。そんなことよりも、気になるのはその仕組みか。「ボタンを押すって誰が押すのよ」と著者が叫んでいたが、同感だ。状況が深刻であればあるほど滑稽な事象は滑稽さを増すが、シモネタの場合は顕著だ。

人口当たりのバイアグラ使用率が世界一位とも言われる台湾はテレビで「ED」治療のコマーシャルが自然に流れる。文化や風土の日本との違いは明らかだ。「明るいインポ」のお国柄からか、薬で8割の患者が治り、残りの2割も3000円程度の注射でほぼ治るとか。

タイでは効果絶大と評判の睾丸マッサージの効用を調べるために、著者は自分の夫を実験台として送り込む。「ゲイのEDの男性が女性としたくなるほどの効果があった」と聞けば試したくなる気持ちもわかるが、夫はEDでもないのに、タイに連れて行かれ、睾丸を異国の地でマッサージされるのだ。何だか不憫である。著者の取材の目を国内から海外に向けさせたことが悲劇の始まりか。

結局、著者の友人は「不能」になったパートナーと意外な結末を迎える。月並みな表現だが、若かろうが、老いていようが、人間は性を求めるものなのだ。当然ながら個人差はあるが、60歳を超えても泣いたり喜んだりするように性への欲求も自然にあるのだろう。とはいえ、正直、32歳で性欲減退気味の私としては頭ではわかりつつも、「そんなにしたいのかね」とよく理解できないのだが、超高齢化社会に突入する日本ではもはや誰もが対岸の火事としてぼけーっと眺めているわけにはいかないのかもしれない。夫婦そろってセックスは卒業との認識があれば別だが、そうでなければ、勃っても勃っても少しでも萎えたらパートナーとの関係に熟年期に暗雲立ち込めるケースは今後増えるのだろう。人生50年が80年、90年になったら苦労も増える。「勃たぬなら、殺してしまおう」までいかなくても、「勃つまで待とう」と悠長なことをいえる雰囲気でもなく、「勃たぬなら何とかしろよ」が熟年期、老年期のの男を取り巻く現状になるのかも。そう考えると読まざるを得ない一冊か。

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