『パッケージデザインの教科書』 ベトナムのエースコック即席めんに、こぶた君がいないワケ

鈴木 葉月2013年01月28日 印刷向け表示
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パッケージデザインの教科書
作者:
出版社:日経BP社
発売日:2012-12-06
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ヒット商品にはワケがある。息の長いおなじみ商品から最近の流行商品まで、本書では「パッケージ」という切り口からそのヒットの理由を説き明かす。「日経デザイン」編集だけあって紙面の構成も見やすく、カラー写真や図版も豊富で手にとってページを繰るだけでも楽しい一冊だ。

パッケージには、消費者に訴えたい商品イメージのみならず意外な機能も備えられている。例えば缶コーヒー。そもそもコーヒーは焙煎すると必ず炭酸ガスが発生し、そのまま密閉容器に詰めてしまうと缶容器の接着面がはがれたり破裂したりする危険性があるという。通常は炭酸ガスが抜け切るまでエージングする必要があり、その過程で豊かなバージンアロマも放出されてしまっていた。

キーコーヒーの「天使のアロマ」のパッケージは、独自の工夫によって焙煎直後に発生するバージンアロマと呼ばれる香りを缶の中に閉じ込めることに成功。缶を密閉する特殊アルミ製のふたが膨らむことでコーヒーから発生する炭酸ガスの圧力を受け止める構造を備え、炭酸ガスとともにバージンアロマが逃げる前にコーヒーを缶に詰められるようになった。

オープナーを回し込みながら開封した瞬間、「シュッ」というかすかな音と共に缶の中の圧力が解放され香りが一気に広がる体験は、これまでにないものだ。コーヒーの缶を開けるという行為そのものを楽しむ新たなデザインがここに誕生した。

ソニーのデジタルフォトフレーム「S-Frame」も、パッケージの工夫でこれまでの家電とは全く異なったアプローチで潜在的なニーズをつかんだ商品だ。子供の写真を入れて祖父母に贈る、結婚式や披露宴で撮影した写真を入れて友人にプレゼント……。同社はデジタルフォトフレームをコミュニケーションのきっかけとなるツールと見ていた。

そのためにソニーが力を入れたのが、これまでにない梱包の開発だった。まず、買ったままの状態でもギフトとして贈れる質感の高い梱包形態を追求。次に、箱から一度商品を取り出してデータを入れ、その後詰め直すという、最梱包可能な設計にすることに知恵を注いだ。白の発色や箱中央のエンボス加工されたロゴで安っぽくならない質感を追求するなど、ブランド物の靴箱を参考に梱包が設計された。

ソニーによれば、ギフト目的でこの商品を買う人の割合は「およそ3割から5割」。年末のようにギフト用とでの購入が多い時期はリボンの付いた青い袋に包んで大切な人に贈るというキャンペーンを展開するなど、徹底してギフト需要を開拓。時を同じくして、2007年に3万台だったデジタルフォトフレーム製品の販売台数は2008年に8倍近い23万台に急成長。その牽引役となったのは紛れもなくソニーだろう。最近は業績で苦戦のニュースが続くソニーもどっこい頑張っている。

また同じパッケージであっても、男女で目の付け所が違うという。日経デザインは「伊右衛門 グリーンエスプレッソ」の商品写真を消費者に見せて、パッケージデザインのどの部分を気に入ったか、気に入らなかったかを直接書き込んでもらう調査を実施した。結果、男性が好印象を持っているのは、パッケージ下の緑色の帯部分と判明。「Green ESPRESSO」というロゴに男性の強い反応が見られた。

女性が評価したのは黒い縦じまの背景に同じく黒で松の絵が描かれている部分。遊び心を感じる絵やイラストなどのイメージ表現を好む傾向が強かった。女性をターゲットとする商品パッケージを作ろうとするならば、絵は欠かせない。女性は一工夫加えた絵柄にグッとくるのだ。

男女差は文字の好みにも現れている。女性には明朝体などの優雅な文字を好む傾向がある。女性から高い評価を得ているデザインとしてはサントリー食品インターナショナルの「ボス シルキーブラック」の端正なセリフ体の「SILKY BLACK」の文字や、パナソニック LED電球「エバーレッズ」の「まさに電球、全方向に明るい」というシンプルな明朝体のメッセージが女性の心をとらえている。

一方男性は「躍動感」が文字のキーワード。右肩上がりに躍らせた花王「アタックネオ」のロゴ、キャドバリー・ジャパン「ストライド・エンドレスミント」のグラフィティを思わせるSの文字など、特にシニア男性には躍ったイメージのある文字や形が崩れた文字を好む傾向が現れている。

その他本書では、大塚製薬「ポカリスエット」やロッテ「ガーナミルクチョコレート」などのロングセラー商品のパッケージ変遷の歴史やのマーケティング戦略を振り返り、中国では「格子ではなくストライプ」が目印のキューピーマヨネーズ、ベトナムでシェア1位を誇るエースコックの即席めんに「こぶた君がいないワケ」、国内外でデザインの統一を推進中の「熱さまシート」など、世界で売れているパッケージデザインの最新事情を俯瞰したりといった見所が満載だ。

本書からは、商品の企画者やパッケージの作り手のワクワク感が読み手に自ずと伝わってくる。ヒット作を世に送り出すには、何よりもこのワクワク感が大切なのではないだろうか。写真や図版も豊富で右脳も大いに刺激を受ける。最近仕事に行き詰まりやマンネリを感じ、クリエイティビティを脳に注入したい方にも是非この一冊をおススメしたい。

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本書の記事は、雑誌「日経デザイン」の記事を抜粋、修正、加筆したものである。他にも日経デザインの「教科書シリーズ」には魅力的なラインナップが顔をそろえる。

素材とデザインの教科書 第2版
作者:日経デザイン
出版社:日経BP社
発売日:2012-03-22
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編集デザインの教科書 第3版 (日経デザイン別冊)
作者:日経デザイン
出版社:日経BP社
発売日:2008-12-25
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プレゼンテーションの教科書 増補版
作者:脇山 真治
出版社:日経BP社
発売日:2009-07-30
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知的財産権とデザインの教科書
作者:龍村 全
出版社:日経BP社
発売日:2009-12-23
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ユニバーサルデザインの教科書 増補改訂版
作者:
出版社:日経BP社
発売日:2005-11-12
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ものづくりにロマンあり。商品開発モノは科学あり人間ドラマありで読み応えがあり、こちらの一冊もおススメ。

世界一のトイレ ウォシュレット開発物語 (朝日新書)
作者:林 良祐
出版社:朝日新聞出版
発売日:2011-09-13
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