『ノマドと社畜』ノマド的な社畜であれ!

田中 大輔2013年03月12日 印刷向け表示
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ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える
作者:谷本真由美(@May_Roma)
出版社:朝日出版社
発売日:2013-03-09
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自由に働くノマドと、奴隷のように働く社畜。これだけを聞くと、社畜よりもノマドのほうが魅力的に見えるのは間違いない。しかしノマドは収入面や福利厚生といったことで社畜に劣る。こういったことを考えずに安易にノマドになろうという人が増えている。本著では安直にノマドになろうとする人に警鐘を促し、ノマドの実態を紹介している。

ノマドは2011年の後半からブームの兆しをみせている。書店でビジネス書コーナーに行けば、ノマドという言葉が入っている本をいくつも見つけることができるだろう。東日本大震災以降「従来の働き方から自由になり、自分を守る働き方をしたい」と思っている人が増えている。それがブームの背景にあるようだ。

ノマド(nomad)の語源はギリシャ語で「遊牧民」という意味である。ジャック・アタリの『21世紀の歴史』で紹介された概念で、他者の管理を受けることなく、さまざまな場所で、本人の裁量に応じて「自由に働く」ことから、定住地を持たない遊牧民のように、働く場所を自由に選択するという意味でこの名がついた。

ノマドがブームになる裏では、ノマドという働き方の本質と恐ろしさを十分に理解していない人たちを食い物にしている「自己啓発商法」が横行しているという。「年収1000万も夢じゃない」とか、「ノマドになって有名になれる」という甘い言葉をささやき、ノマドになるノウハウを売りつけるといった「デジタルな香りのする貧困ビジネス」が横行しているというのだ。

ノマドになればアフィリエイトなどで短期間に大金を稼げるし、上司の機嫌を伺う必要もない。なんだか最先端だ。そんなうわべの格好のよさだけに惹かれて、ノマドになりたいと思っている人は特に注意が必要だ。会社を辞めてノマドになれば、自分も成功できるなんて、世の中はそんなにあまくない。

ノマドという働き方は著者が住むイギリスでも注目を集めているそうだ。企業は「好きなときに高度なスキルを持った人材を雇用したい」という意図があるため、正社員の代わりに柔軟な形で働いてくれるスキルの高い人材を求めてノマドを雇用しているという。

それって派遣労働者や契約社員とはなにが違うんだ?と思ってしまうが、イギリスのノマドは誰にでもできる「付加価値の低い」労働を提供する人ではなく、その多くがなんらかの「専門家」であるという。そしてみな高給取りである点が日本の派遣社員などとは違う。包丁一本で全国を渡り歩く板前さんというようなものをイメージするといい。

イギリスではノマドの組合があるそうだ。その組合会員の平均年収は約780万円(1ポンド180円換算)、そして60%以上が年収1000万円だという。ちなみにイギリスの平均年収は450万円、日本は412万である。ノマドの年収が高いのは、仕事が不定期であること、成果次第で企業はいつでも契約を解除できるという「不安定要素」があるからだという。実力がなければクビになる。そんな厳しい世界なのである。

実力がない人は、使い捨てや、下請けで雇われるだけなので、給料も安く、保障もない。企業側にいいように使われるだけである。ブームに乗っかってノマドになろうと思っている人の行き着く先は、フリーターブームや起業ブームと同じような悲劇になるのではないか?と著者は危惧している。

ノマドワーキングが当たり前の世の中になると、「激烈な格差社会」が到来することになる。労働の付加価値が低い人の給料は下がっていくし、無能な正社員はクビを切られる。日本のサラリーマンには、なんでも広く浅くできるゼネラリストタイプが多いけれど、ノマド的な働き方の世界では、ゼネラリストよりはスペシャリストが求められる。自分独自の専門性や個性がないとやっていけないのだ。

だからノマドになれるのは、ほんの一部のスーパーワーカーだけなのである。それでもノマドになりたい人はどうしたらいいか。著者が勧めるのは社畜として給料をもらいながら、ノマド的な雇い人になるということだ。この分野ならあなた、と言われるプロを目指し、自分らしい付加価値を仕事の中からみつけていく。

そして「自分しか提供できない」ことを意識して、知識やノウハウを磨いていけばいい。ダブルワークもいいだろう。本業以外になにかちょっとしたお金になる仕事を持つと「いざとなれば、ほかの道もあるんだ」という自信もつく。重要なのは常にプロ意識を持って働くということだ。

この結論はけっして目新しいものではない。セス・ゴーディンの『「新しい働き方」ができる人の時代』や、トム・ピーターズの『エクセレントな仕事人になれ!』などでも言われていたことである。

日本の働き方も少しずつではあるが、アメリカやイギリスに近づいているような気がする。備えあれば憂いなし。常にプロ意識を持って仕事に取り組み、「自分にしか提供できない」ことを身につける。こういったことをいまから意識していればいざというとき、きっと役に立つはずだ。

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか
作者:ダニエル ピンク
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2002-04
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ノマドとして生きる人のバイブル。自己啓発商法をしている人が言ってることは、だいたいこの本の受け売りなのではないか?

ノマドライフ 好きな場所に住んで自由に働くために、やっておくべきこと
作者:本田直之
出版社:朝日新聞出版
発売日:2012-03-16
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ハワイと日本でデュアルライフを送る著者が、ノマドとして生きるとはどういうことかを書いた本。安直なノマド礼賛本ではなく、ノマドになるにはきちんとした準備が必要であると書かれている。著者自身もノマドになるのに10年かかったそうだ。

自由な働き方をつくる 「食えるノマド」の仕事術
作者:常見 陽平
出版社:日本実業出版社
発売日:2013-01-26
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こちらは『ノマドと社畜』同様、安易なノマド礼賛を否定し、食えるノマド、地に足の着いたノマドとはどういうものかを書いた本。ノマドになれば上の人に頭下げなくて済むというのは幻想であるようだ。

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