『エンデュアランス号漂流』

高村 和久2011年03月25日 印刷向け表示
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エンデュアランス号漂流 (新潮文庫) 『エンデュアランス号漂流』 アルフレッド・ランシング(著) 山本光伸(訳) 新潮社 (2001/06)

3月25日、今日は本来であれば2年間通った早稲田ビジネススクールの卒業式であった。

式は震災を考慮して中止となったが、卒業という一区切りを記念して、恩師の内田教授がおすすめの本をベースに書こうと思う。絶版という噂もあるが、そんなの誰も気にしないだろう。

本書は、南極横断に挑戦した英国人探検家シャクルトンと28人の隊員の、1914年から17ヶ月以上にわたる南極圏漂流記である。一言でいって、事実とは思えない。

銃器は貴重だからと素手でアザラシを捕まえて生活し、流氷に圧し潰されて船が沈没してしまった後には、小舟のみで極寒を乗り切った。最後は、本当にとんでもない状況になる。

この信じられない苦難を乗り越える物語において、大変に凡庸だけれど、下記の重要性が改めて感じられる。

● 自信をもつこと

● やる仕事があること、それをきっちりとこなすこと

自信をもつということは、“普通はこうなりそうだ”という平均値を主張することではなく、失敗する可能性を引き受けて挑戦することだ、というのは、学校で何度も学んだことだ。もし失敗したら、またそこから努力するのだ。

一方の「やる仕事があること」についても、隊員のやることがなくなって士気が落ちたのでキャンプを移動することにした、と書かれているくらい重要だが、そんなことは言われるまでもない。しかし、想うことがある。

実家の近所に龍沢寺という寺があり、そこのお坊さんが言ったという噂話である。うそかもしれない。

戦争に負けることになった時、周辺の住民が非常に不安で、お坊さんに「日本はこれからどうなってしまうのでしょう」と聞いた。

そうしたら、その返事が「何事もなし。」だった。という、それだけの話だ。

でも、太平洋戦争である。建物は壊れて、敵国に支配されることになった。何事もないわけないではないか。自分だったら一緒にオロオロするだろう。

その当時、亡き祖父は茨城から東京に出て、働きながら早稲田に通っていた。高校の先生になるつもりだった。召集されたが、ぎりぎり戦地に行かなかった。それから、戦後のどさくさで静岡の学校の事務員になる他ない状況となり、なんだかそのまま定年まで勤め上げたのである。

当然ながら、自分が物心ついた頃にはすっかり髪が薄いおじさんだった。いつも私の味方で、母には能天気と言われた。代わりに授業参観に来た時には、午後からの授業に午前からいた。

テレビが好きで、正月は箱根駅伝を見て、いつものトークからは想像できない勢いで、早稲田を抜かす他校をけなした。

もう一つ想うことがある。これも遠い昔、高校の頃、ミーハーだった私は何かに憧れて『ユリイカ』を買った。きっと買ったら賢くなれると思ったのだ。その病気は今も変わらない。

その中で、かっこよかったタイトルを憶えている。「ここがアメリカだ、ここで跳べ」だ。もちろん内容はさっぱり理解できなかった。元ネタが、イソップの「ほら吹き男」だというのは後から知った。ある旅人が「俺はロードス島の大会で記録的なジャンプをした。うそだと思うならロードス島に言って聞いてみろ、山ほど証人がいる」と言った。そうしたら、「証人など要らぬ、ここがロードスだ、ここで跳べ」と言われた、という話である。

戦後の人は、今の日本をのこした。今はどうだ。

学校に行って何が得られたかと聞かれると、何か変わったような気もするけれど、実際のところよくわからない。でも、いろいろ聞いて、いろいろやった。

ここが「戦後」だ、ここで跳ぼう。大丈夫、何事もなし、とはとても言えないけれど、自信をもって、やれることをやっていけば、復興はきっとできる。

2011年3月、春分の候、大変な状況ではあるけれど、桜が咲く時季はまた来たではないか。

被災地の皆様に心からお見舞い申し上げ、一日も早い復興を祈念いたします。

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