『ご先祖様はどちら様』

高村 和久2011年05月24日 印刷向け表示
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ご先祖様はどちら様

『ご先祖様はどちら様』 高橋秀実(著) 新潮社 (2011/04)

自称・根無し草の私が思いますに、高橋さんはプロフェッショナル・根無し草の薫りがします。

おそるべきフットワークの軽さ。ご先祖様の話だけじゃなかったのか。まずは手始めに古墳について調べ、「自宅が古墳の上だった!」と感動する。ここで言う高橋さんの“ご先祖様”って縄文人だ。雰囲気が縄文人ぽいと言われたからだ。随分遡った。そうかと思えば、奥さんに「女の人って、前世とか好きでしょ。」と言われれば、その勢いで前世占いに会いに行き、「西に行きなさい」などと言われたりする。そして西に行った先では先祖の家紋の話を聞きつけ、今度は同じ家紋の家を探す旅に出た。全てが現地調査だが、そこに決められたゴールはない。いや、ご先祖様について調べようという気持ちは確かにあるのだが、そこから先が感動的に風来坊だ。

行く先々で出会う人もふわっとしている。自分は天皇の末裔だ、と家系図を見せて言う人が「インチキなんですけどね。」と言う。高橋さんは「インチキなんですか?」と言う。もっと突っ込まんかい!関西の人が読んだら、いーとなるんじゃないか。「我々の先祖は平家です、なぜなら源氏じゃないからです。」と主張されたら「そう考えると全身の皮膚が鋭敏になったような気がしてきた」とスルーだ。なにかが間違えているじゃないか。そんなにざっくりじゃないだろう。遂には横浜の墓地で「遠くの親戚より近くの他人ですよ」と言われる。それってなんてちゃぶ台返し。お墓同士が近いという意味ではあるが。。

でも、墓地のおじさん、いいことを言う。何体くらい埋葬されているのですか?との質問に、10万体を超えるのではないかと答え、「にぎやかでいいですよ。夜なんか、横浜のネオンが石塔に反射してきれいなもんです。」 そこでにぎやかに騒いでいるのは、今の人と同じようにあーだこーだとやっていた、昔のご先祖様たちだ。本書があぶりだしのように描いたのは、今も昔も、みんな、いろいろでおもしろいですねー、という、時間と空間を超えた普通の人生の集まりだろう。そして私も、やっぱり普通の人生を生きて、ご先祖様になって、どこかでにぎやかにやっていくのだ。

自分が凡人だと知るのはけっこう気分がいいことかも、と思ったのはいつ頃だっただろうか。部活動が始まった時だろうか。選手として試合に出たら凡人だった。そりゃそうだ、みんなと同じようなことをして、同じようなものを食べている。そして、たまにおなかを壊す。でも、ちょっとやってみたら世界は広くて、やりたいことがまだまだあるね、という状態、確かに悪い気分じゃなかった。きっとみんなも同じじゃないか。そうやってワイワイと過ごしてきて、我々の時代を経て、また次に受け継がれていく。そんな空想から出てくる幸せ感、ありますよねえ?ご先祖様…

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