『警察の誕生 (集英社新書)』

新井 文月2011年01月25日 印刷向け表示
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警察という言葉を聞くと、ドラマや映画などで活躍する捜査追跡のイメージであったり、実際の生活では派出所のお巡りさん(巡査)であろうか。今でこそ印象は安心や憧れの対象となっているが、ここにたどり着くまでにはドロドロした歴史を歩んでいる。警察組織は王権や教会、都市といった様々な権力機構と密接な関係で誕生しており、本書では国家が繁栄する過程の過酷な中で誕生した警察の歴史を、ユニークなエピソードをふまえて紹介している。

著者の菊池良生はオーストリア文学を専攻し、ヨーロッパ王朝史に精通する明治大学教授である。本書のアプローチとして各国の警察誕生の瞬間を探りながら、近代ヨーロッパ成立に至る過程を証明していく。範囲は古代オリエントからローマ、ヨーロッパ、日本など世界各国の警察の成り立ちを網羅している。共通している流れとしては、各国の警察が誕生する理由は市民の安全では無いのである。まず王室や政府・教会を反乱者から守る事からはじまる。

そして誕生したばかりである警察組織の末端連中はきまって低賃金だ。それで何故士気が保てるのか疑問に思うが、各国の人間性をふまえ上手くやっている仕組みを紹介している。

印象的なのは江戸の警察組織だ。江戸の治安は密告によって保たれる。当時、江戸幕府の警察にかける予算は年間総量で金二千両。現在でいうと約4億。この金額は人口数千人の村役場でも足りない金額だ。当時の町人は五十万人なので、その治安をカバーするにはあまりにもお寒い金額なのである。役人や町奉行の数も少なく、「鬼平犯科帳」で有名な火付盗賊改は予想を遥かに超えてたった30~40名の陣容。そして江戸の犯罪メインは泥棒。どう治安を維持するのか不安の中、自然発生的に「引き合い」システムが生まれる。引き合いとは目明し(警察)が、被害者から賄賂をもらう今の日本から想像もできない行為である。

発生する理由として、被害者は差し紙(召喚状)が来れば必ず町役人である家主5人組に同行してもらわなければならない。引き合いは捕らえた盗人から前科の盗みを聞き出し、被害者を訪ね、「訴え出れば一日がかりの御白洲(裁判)で一日がかりの上、町役人への礼代もかかる。これ以上負担を増やしたくなければ、黙っているから心づけを」と囁くのである。ヒドい世の中である。この点当時のイギリスも同様であり、民間人が訴えるのには裁判の費用を負担しなければならない。たいした被害がなければ泣き寝入りしたほうがよっぽどましな世の中であった。今の日本に生まれて良かった。

だが、おかげで引き合いはせっせと盗人をつかまえようとする。被害者はたまったものではないが、「自分の身は自分で守る」といった所か。治安はどんどん良くなっていく。その他、兵舎で売春宿を経営するウィーンの世知辛い警察事情や、大犯罪者が局長になるおかしなパリ警察の例など驚きながら各国の警察の成り立ちが理解できる一冊だ。

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