『閃け!棋士に挑むコンピュータ』

新井 文月2011年02月11日 印刷向け表示
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人工知能VS人間

将棋指しは人生の時間の大半を棋盤に向かい頭脳の鍛錬に費やす。日本将棋連盟会長の米長邦夫はかつて3人の兄に対し「兄たちは頭が悪いから東大に入った。自分は将棋指しになった」と矜持の言葉を残している。また柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』ではプロ棋士である鈴木大介八段が監修しているせいか、将棋の世界に魅了され没頭している棋士そのままを疑似体験できる。

本書では将棋ファンにとって歴史的な対局となった「清水市代女流王将 VS あから2010」の舞台裏と、その対戦の臨場感を味わうことができる。情報処理学会が創立50周年記念事業として将棋連盟へ挑戦状を突きつけた。その結果、女流王将の将棋に対する想いと最強のコンピューターを目指す開発者のプライドに火をつける事になる。

意外かも知れないが将棋ソフトは弱いイメージであった。1985年、ファミリーコンピュータに初の将棋ゲーム『内藤九段 将棋秘伝』が登場したが、当時小学生の私でさえ正直あまり強くないと感じた。プログラムは無論AIではなく、思考パターンは同一判断である。勝ちパターンがわかればわずか9手で詰むことができた。

将棋におけるコンピュータの思考法だが、まず棋譜に対し全手を読んでいない。ゲームの展開数は10の226乗であり、10手の時点で1073京7418兆2400億という膨大なパターンとなる。これではさすがに最速コンピュータをクラスタ(併合配置)で集結処理しても、すべての手を読む計算はとうてい不可能だ。

ではこの状態からソフトをどう強化するのか。本書では見事に説明しており、余計な手を読まない効率良いプログラムを組むのだ。その際、金や銀の駒に位置情報や攻撃・守備ステイタスの評価関数を複数設定する。複数の意見は1位~4位まで投票制で割り出され1番多い票が決行される。この判断の設定は人力をもって1つづつ調整され、コンピュータといえども情熱と気合いで強くなっていった。また開発が進むにつれソースコードはネット上で公開され、プログラム振り分けのアイデアと処理速度の技術が高められていった。

驚くのはプロ棋士の思考は、一瞬で約3手に絞りこむ。この直感とひらめきが、長年棋譜上で戦ってきた成果だ。清水市代は父から将棋を通じて礼儀作法を学んだ。実際に「あから」と対局した際、はじめの挨拶において相手は反応が無い。当たり前だが、そんな些細な事に清水は動揺してしまう。清水にとって将棋は対話であり、勝敗よりも一緒に棋譜を作り上げたいのだ。

この立場の違いも読み進めるにつれ、お互いが歩みよる形となる。後半、清水は「初めてコンピュータと心が通った」と伝えている。将棋を知らなくても充分にドラマを味わう事ができるので、対戦結果を知らなかった方もぜひ本書で体験してほしい。

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