『かぜの科学—もっとも身近な病の生態』

鈴木 葉月2011年03月28日 印刷向け表示
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かぜの科学―もっとも身近な病の生態
作者:ジェニファー アッカーマン
出版社:早川書房
発売日:2011-02
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「科学」の対義語は「迷信」かもしれない。抗菌グッズに栄養剤、のど飴・カプセル感冒薬 — 風邪に対して財布の紐が緩みがちなアナタへの処方箋が本書、かも。

残念ながら、風邪の特効薬は今もって存在しない。風邪はウイルスによって引き起こされる。しかし、それはウイルスのスーパーグループであって、風邪の原因には少なくとも200種の異なるウイルスが関与する。その代表格、風邪全体の半数の原因とされるライノウイルス属でさえも、異なる抗体に反応する少なくとも100種の遺伝学的に異なるウイルス株を含む。さらに風邪ウイルスへの免疫反応、くしゃみ・鼻水・発熱といった症状の現れ方や程度も千差万別・十人十色。ただし、風邪症状は平均7日間で快復する。

つまり、本当の意味での「風邪の特効薬」発見を謳うには、無数にある原因ウイルスと症状の組み合わせに対し、臨床実験にてその根本原因を(自然快復期間の)7日以内に解消する手を打ち、統計的有意性を示さねばならない。これは無謀な話、とシロウト目にも思えてくる。

ただ、依然として風邪に対する恐怖心は拭えない。発熱前の悪寒、つらい咳き込みにのどの痛み、煩わしい鼻水・痰、ボーっとする頭。これら症状を治したい一心で、効果ありと思えば少々おかしなことでも試してしまうのが人間の心理というものだ。以下、「かぜを科学」した結果、判明した都市伝説の一部である。

・塩素ガス — 毒を以て毒は制せず!

・抗生物質 — 標的たるは細菌のみ、風邪ウイルスには無力

・ビタミンC — 予防効果なし、ごくわずかの症状軽減のみ

・抗菌製品・殺菌ローション — 明らかに販売戦略

・タイレノール — 肝臓にシワ寄せ(よもやの”カウンター・ボディーブロー”)

・亜鉛トローチ — NG

・マスク — この、役立たず!

他方、風邪の病原菌を避ける最適な方法は至ってシンプルで、手を洗い顔に触らなければ良いだけのことだ。が、「手洗い」「顔に触らない」を「科学」すると意外な事実が明らかになる。

適切な手洗いのテクニックとしては、15秒〜20秒間、入念にこすることが肝要だ(※詳しくはこちらを参照)。相応の時間をかけるのがポイントで、なぜなら石鹸はウイルスを手から引きはがしこそすれ、殺すものではないからだそうだ。よって、抗菌石鹸や洗浄剤も風邪の予防には効果がないらしい。(販売戦略アゲイン!)

さらに厄介なのは「顔に触らない」こと。知らぬ間に手は顔に伸び、特にPC作業の間、人は5分に1〜3回の割合で顔タッチを行っているとのこと。これを換算すると、我々は1日に200〜600回のペースで手から顔へ風邪ウイルスをせっせと植えつけていることになる。(いかがです、画面の前の皆さん?)

しかし、改めて風邪を見つめ直してみると、彼らも全くの悪者というわけではない。ウイルスの繁殖は「毒性」(=多くの子孫を残す能力)と「伝播力」(=広がる力)のバランスにかかっている。風邪ウイルスのバランスは後者に傾いており、また「ウイルス干渉」のおかげで、風邪が流行っている時期にはインフルエンザなど、より深刻なウイルスの蔓延が阻止されるという説もある。致命的な疾患にかかるくらいなら、風邪で手を打ってもらえた方が私としてもありがたい。

また、風邪ウイルスは科学の進展にも一役買っている。癌細胞のみを殺す遺伝子組み換え風邪ウイルスの方法がお目見えし、風邪ウイルスを用いてHIVウイルス模倣体を作り汎用ワクチン開発が前進したという発表もある。

どうだろうか、ここは見方を変えて風邪とつき合う方法を考えてみては。Bless you!!

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