著者インタビュー タイツくん 松岡宏行さん(後編)

土屋 敦2009年06月03日 印刷向け表示
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でかすぎるイメージを持たなければ一歩踏み出せる

都心にでかいオフィスを持つ起業って大変だよね。たぶん自分の金じゃ出来ないです。出資者のところを事業計画書を持って回って、人に何百万円も出資してもらうなんて、とてもじゃないけど俺はできない。

だって、自分しか信用できないことにこそ賭けたいから起業するんでしょ? ぱっと説明して、人が賛同してくるようなアイデアってもう古いと思う。自分はいいと思っているけど、人を説得するのが難しくて、まどろっこしいから起業するだと思うんだけど。

シャープなことって、一人二人しか説得できないと思う。でもそれに賭けてやってみたいのであれば、何千万円もかけて、立派なオフィスを借りる「でかい船出」ってできないよね。


二人いればできる

自分の場合、自分と自分を信じてついてきてくれる奥さんぐらいだった。奥さん説得するのが難しい人結構多いみたいだけど、俺の場合はそれがすごく楽で、俺が迷っているときに大体「まっちゃん、そろそろタイミングじゃない」みたいに、やんわり背中押すようなことを言ってくれるんですよ。

励行カードで「二人いればできる」というのを作ったんだけど、一人のときと二人のときはえらい違う。何人ものおっさんたちを説得して、何千万ものを金を出させるんじゃなくて、、一人だけ、自分に共鳴してくれるパートナーを見つけるということが、すごく重要じゃないかな。

おれはたまたま奥さんに出会えたのすごくよかった。たった一人彼女だけが応援してくれた。奥さんと出会えなかったら会社はうまく行かなかっただろうね。

由子さん(注:松岡さんの奥様の笹原由子さん)と出会う前はスイスイ社を作ったけど何もできなかったですね。

本当に奥さんには感謝の一言ですよ。こっちは金もない、仕事もない。友達もいない「三重苦」なのによくぞ結婚してくれた。

(同席の編集者のほうを向いて)あっ、このこと、もうちょっと本に書けばよかったなぁ。


実家にいるときはひげさえ伸ばせなかった

実家にいるとき、ひげが濃いから、剃るのも面倒だし、本当は伸ばしたいんだけど、親にいろいろ言われると、ここで争うのもいやだし、「ああ、もういいや」と剃っちゃうんだよね。伸ばしかけては剃る、の繰り返し。

たかだかひげを伸ばすというどうでもいいことでさえ、自分の意志を貫くというのは非常に難しかったんですよ。

で、結婚したその日からですよ、ひげを伸ばせるようになったのは。奥さんが「まっちゃん、伸ばしたら結構似合うんじゃない」みたいなことを言ってくれて…。

当時はひげだけじゃなくて人生そのものがそんな感じだよね。やりたいんだけどやれないみたいな。批判浴びたりしても、一人だけだと、俺はこれだ!なんて突っぱねられないんですよね。


ブスでもいいから賛成してくれる人と

よくサラリーマンで、家に帰ると奥さんに批判されてるという人いるけど、少なくとも起業家は、そんな状態じゃやっていけない。起業家が奥さんと喧嘩しながら、自分の意志を通すなんて事は絶対出来ないと思うなぁ。

奥さんに批判されながら仕事をするのって大変なことだよね。そういう人は起業できないし、サラリーマンすら続けるの苦しいと思うな。でもそういう人もいるんだよね。ブスでもいいから賛成してくれる人と結婚したほうがいいよね。


起業は公私混同そのもの

あとサラリーマンの美意識の中で、公私混同せずというのがあるじゃない。家庭に仕事を持ち込まず、みたいな。あんなものの考え方したら絶対起業なんかできないよね。起業って公私混同そのものだよ。家庭で仕事の話をしないなんてありえないでしょ。

家庭で仕事の話をしないと起業って一歩も進まないと思うな。だって夜見る夢だって仕事の夢なんだからさ。家庭に仕事を持ち込まずみたいな美意識を持っていたらできるわけない。

 

年齢とともにステージをあげる

フリーランスって年齢との戦いって必ずあるからね。デザイナーなんて典型的にそうだよね。一デザイナー、従業員のデザイナーとして40歳代っていないでしょ。30歳代まではいるんだけどね。そういう人たちってどうするんだろうね。みんながみんなアートディレクターになって独立できる? 

必ずそこに転機が来るんだよね。自分のステージをいつか上げていかなければならないっていうことに気がつかないと、40歳になったら止めざるを得ないんだよね。

俺、40代で広告の企画とか考えんのかなぁと。広告って若い人をターゲットにすることが多いんだよね。自分が35歳であれば25歳の人の気持ち、ぎりぎりわかるけど、自分が45歳になったとき22,3歳の女の子に訴えるものを考えるのは、難しいよね。女くどくこともできないのにさ。

広告っていうのは40代で現役でやろうっていうのは難しいだろうとやっぱ思っていたんですよ。だから業態を変えなければとすごく思っていた。それが今の業態(注:松岡さんが代表取締役を務めるスイスイ社はいわゆる広告デザインの会社から、タイツくんやobetomoなどのキャラクタービジネスへと転換した)になった。だから売り上げの規模を伸ばすことは出来なかったけど、自分の年齢にふさわしく業態を変えることはできたんだよね。

自分の年齢だけではなくそもそも社員の年齢が上がってきてるわけじゃない? 普通のデザイン会社って社員デザイナーを使い捨てにしてるんだよね。それをしたくない、と思ったときに、会社全体が業態を変えるしかない。


実はプライドを持ってからが厳しい

年齢のことでさらに言えば、仕事やりやすいのはさ、例えば広告代理店の人が38歳で自分が32歳とか。これはすごい仕事受けやすいんだよ。頭下げて入りやすいし。

それがいつの間にか自分のほうが年上になっちゃったときに難しいんだよね。相手は自分がプロディーサーやらディレクターだと思っていて、相手を「お前ら下請け業者だ」と思っている。思ってるのにこっちとしてはね、俺のほうがお前より知っているよって、こう思っちゃうじゃない。相手がそういう人に仕事発注したいか、と。当然したくないんだよね。

若くて人に頭を下げやすいときって、大チャンスだよね。実はプライドを持ってからが厳しいんだろうなぁ。

若いうちにもっと頭下げとけばよかった……。でも俺は「北海道から来た熊」戦略だから、結構、若いときから何にも知りません、教えてくださいって、やっていたかな(笑)

(ここで編集者からそれはあくまでも「戦略」であって、実際はプライド高いのでは?? という感じの突っ込み。)

うん、確かに。なんでなんだろうね。

俺、優等生だったんだけど、例えば不良のほうが圧倒的に女の子にモテるじゃん。ものすごくくやしいわけ。「人間として俺のほうが上なのに」とか(笑)

それってすごい無駄なプライドだよね。モテてたほうがいいもんな。不良でもなんでも。

(了)



ということで、なんでここで終わるんだ、という感じのとこでおしまいですが、この先は、次の本のネタにかかわる企業秘密。「セクハラが止まらない」話など、興味深く、また共感しました。次作の発売、楽しみです。

それから、松岡さんが、「俺、励行カードってすごい「ど一生懸命」書いていて、笑わそうなんてひとつも思っていないんですよ」と言っていたのも印象的でした。

おしまい。


タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム
作者:松岡 宏行
出版社:大和書房
発売日:2009-05-08
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