『閃け! 棋士に挑むコンピュータ』

土屋 敦2011年02月23日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
閃け!棋士に挑むコンピュータ
作者:田中 徹
出版社:梧桐書院
発売日:2011-02-10
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

 昨年10月、清水市代女流王将(当時)とコンピュータ将棋「あから2010」が対戦した。誰もが指摘せずにはいられない「あからのキャラクターの(別の意味での)すごさ(こちらこちらをご参考に。本書の表紙のとギャップが……)を含め、対戦当日は、twitterでも#vsComshogiのハッシュタグが大いに盛り上がり、TLに熱を帯びたtweetが次々と流れ込んできた。

 この「熱」を体感せずに、「86手であからが勝利した」という結果だけニュースで知れば、「なんだ、あからの圧勝じゃないか、コンピュータ強いな」ということでおしまいになってしまうかも知れないし、実際そういうコメントも試合後多々、ネット上で目にした。

しかし、そうではないことは、本書の第五章を読めばよくわかるだろう。戦いが持つ熱、会場の熱気、それがストレートに伝わってきて、将棋など小学生以来やったことのない私が読んでも、胸が熱くなり、息を呑み、興奮した。ずいぶん昔だが、週刊誌で仕事をしていたときには、いわゆる大きなタイトルの観戦記を何度も読んだが、ここまで熱気に溢れ、わかりやすく、スリリングな将棋の対決をめぐる記述を他に知らない。

その理由は、いくつかある。

まず、「あから」のログ、つまり、どんな行程で指し手が決められたのかが明示され、清水さんの手が、あからの予想通りだとコンピュータは「予想的中!」と言うなど(実際に言う訳じゃないが、そんなイメージ)、コンピュータ側の思考が見えることだ。実は「あから」は4つの既存のコンピュ—タ将棋ソフトが多数決で指し手を決める合議システム。そのコンピュータソフト同士が、多数決で手を選ぶ様もログからわかり、清水さんの手に対して、ソフトが4人であーだこーだ議論しているようで面白い(ちなみに、コンピュータ将棋好きだと、ログを読みながら「さすが『激指』いい手を選んでいるな」とか「『ボナンザ』だけやけに派手な手を主張していて、他のソフトに却下されている」とか、凡人には計り知れないマニアックな楽しみ方もあるらしい)。

そして対戦後の清水さんに取材をしていて、「あから」の指し手に何を感じたかも、しっかり話を聞いている。両者の思考を押さえることで、盤を挟んだ真摯な対話としての将棋をほぼ描き切っているのだ。

第五章の熱は、そのあとゆっくりと拡散してゆく。そもそもコンピュータ将棋は人工知能研究に端を発していること、そしてコンピュータに人のような知能を持たせるには、直感や閃きを持たせることが大きな課題であり、そのためには大きなブレークスルーが必要であることが示される。このあたりで、なぜ本書の表紙がヒューマノイドであるのかも、明確になってくる。

著者らは、コンピュータ将棋の開発が結局のところ「人ってなんだろう」という探求」だというベクトルを示す。それが本書の読後感を包む暖かな余韻の理由かもしれない。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら