『かぜの科学』 ジェニファー・アッカーマン 早川書房

栗下 直也2011年04月03日 印刷向け表示
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かぜの科学―もっとも身近な病の生態
作者:ジェニファー アッカーマン
出版社:早川書房
発売日:2011-02
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本書は風邪の解明に挑んでいる専門家のユニークな研究の紹介や、サイエンスライターである著者自らが風邪実験に参加したりして、かぜ(普通感冒)を科学的に検証しようとしている。


くしゃみによるウイルスの拡散の秒速だとかおもしろいデータは満載だが、読み進める内に、途方に暮れるかもしれない。風邪は神経質にならない限りひくし、普通感冒にこれといった治療方法はないのだというから。だが、そこが本書の醍醐味だ。風邪はこんなに身近な存在でありながら、本当のところ「よくわかっていないのね」という新鮮な驚きを与えてくれる。


「神経質に成らない限り」と書いたように、もちろん、風邪をある程度防御する方法はあるという。かぜの原因はウイルスであることはわかっている。寒い格好をしていても風邪を引かない奴はひかない。このウイルスを目や鼻に入れてしまうと体が反応し、鼻水が出たりのどがいたくなったりするのだ。

ウイルスはしぶとい。ドアやら家庭の中にウイルスはうようよしている。だから例えば、あなたが家の中に引きこもり、暖かい格好をしていようとも、子供やら家族がウイルスを持ち帰ってテレビのリモコンやら電気のスイッチをさわったら、あなたが何日か後にはひどい咳に悩まされることも普通にある。

逆に言えば、ウイルスを口や目にいれなければいいという話になる。それだけだ。ただ、我々は無意識のうちにウイルスまみれの手で一時間のうちに何十回顔をもさわってしまっているからなかなか難しいのだ。

実際、過剰に対策を講じている人もいる。本書の中でも紹介されているが、常に消毒液を持ち歩き、人混みを避け、子供に近づかない人は存在する。有名人でも、女優のキャメロンディアスはドアを肘で開けるし、大富豪のドナルド・トランプは握手を好まないという。右手を預ける習慣がないのはゴルゴ13だけでないのだ。

まあ、そこまでやると個人的には何のために生きているのかよくわからない気がしてくる。有名人ならいいが、日本の社会人がやったら、煙たがれるのは必至だ。まあ、煙たがられれば余計風邪はひかなくなりそうだけど。

「何も対策して無くても風邪を引かない奴はいるよな」と疑問も生じるが、読み進めていると、体質で差があるという話も出てくる。

確かに、私の父や妻は私ほど手も洗わない。

だが私ほど風邪で体調を崩したりしない。

風邪に弱い体質は存在する。こう言われちゃうと身も蓋もない。

風邪にかからない方法は一応あるが、普通感冒にこれといった治し方はない。おもしろいのは通説で信じられる風邪対策は科学的にはほとんど否定されている(ある一定の条件付きだが)。米国で馬鹿売れしている市販薬はほとんど役に立たない。抗生物質は細胞には効果があるが、ウイルスには意味がない。みんなガブガブ服用しているのに!

逆に言えば、風邪の治し方は思いこみってことだ。実際、大半の人は何をしなくても1週間寝てればなおるらしい。

どれだけ「効く」と思いこめるかが風邪の早期治療のカギかもしれない。そもそも風邪に罹ったという感覚も違うのだから(38度未満は熱とは言わない人種もいるらしい)治ると思えばなおる。信じる者は救われるのだ。


どうウイルスに感染するか、どう防ぐか、治すかという話が中心だが、ウイルスを拒絶せずに、どう生きていくかという点にも最終章でわずかだが言及している。最近の研究では、普通感冒の代表的ウイルスであるライノウイルスを保有しているとインフルエンザの感染率が下がるらしい。いろいろなウイルスと我々は共生してきた。ライノウイルスも同じだろう。あまり神経質になっても仕方ないかなと最後の最後で思わせてくれる。

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