『警察の誕生』

久保 洋介2011年01月19日 印刷向け表示
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警察の誕生 (集英社新書)
作者:菊池 良生
出版社:集英社
発売日:2010-12-17
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日本では『踊る大捜査線』や『相棒』などの刑事番組ものが人気であるが、刑事が所属する警察がどういう組織で何を目的に活動しているのかをきちんと理解している人は意外と少ないのではないか。そもそも警察は何を目的に活動しているのだろうか。事件を解決することが目的だとか、犯人を捕まえることが目的と思った人は、間違いではないが、テレビ番組の影響を受けすぎているかもしれない。警察がどういう組織なのかきちんと理解したい人にとって本書はおすすめだ。

本書によると警察(ポリス)の語源はギリシャのアテネ。この都市国家では、民主主義的な理想社会(ポリティア)を保障する強制機関として警察執行部隊(ポリス)を組織した。そんな警察執行部隊の主な仕事は民衆集会の法廷警察。政府の意向に従わないアテネ市民を容赦なく演壇から引き摺りおろすことが仕事だ。このことからも分かるように、警察の一義的な目的は、住民に対する犯罪の除去・防御ではけっしてなく、政府に対する犯罪を予防・鎮圧すること。要は、政府が権力を維持するためのとっておきの武器が警察権なのだ。

本書はヨーロッパ各国での王国と都市の警察権を巡る攻防を描いており、読者はその攻防を読みすすめていくうちに現代ヨーロッパの構造がだんだん見えてくる。ヨーロッパの歴史とは、実は警察権の取り合いの歴史だったのだ。警察の誕生秘話を読み解くことで、ヨーロッパ内の国家構造がみえてくるとは目から鱗だ。下手なヨーロッパ歴史ものの本を読むよりいい。

又、本書は警察権力が肥大化していく過程も描いている。もともとは政府に対する犯罪を予防することが警察の目的であったのに、段々と風俗を取り締まるようになるのである。17世紀のウィーンの警察は、占い師、酔っ払い、日曜・祝日に仕事する職人までもすべてかたっぱしから逮捕していったようだ。筆者は本書の中で、近年警察権がまた肥大化しつつあることを懸念している。確かにどこの国際空港もテロを防ぐという名目で警察規制のオンパレードだ。都市ではあちらこちらに監視カメラがある。警察が色々なところにいると安心する気持ちはよく分かるが、さすがに日曜・祝日に仕事することを取り締まるところまでエスカレートしないで欲しいと切に願う。

本書の序章とあとがきは、日本における警察(警察庁)の誕生を書いている。忙しい人は序章とあとがきだけ読むのも良い。この部分を読むだけでも、なぜ日本の警察・検察は容疑者に対して自白を誘導するのかよく分かるだろう。村木さん冤罪事件が起こった歴史的背景も本書を読めばだいぶ理解できるはずだ。

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