スマイリーキクチ『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房)

東 えりか2011年04月04日 印刷向け表示
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突然、僕は殺人犯にされた  ~ネット中傷被害を受けた10年間 突然、僕は殺人犯にされた  ~ネット中傷被害を受けた10年間
(2011/03/22)
スマイリーキクチ

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冤罪、嫌な言葉である。

時によって人は間違うことがあるが、やってもいない罪をかぶせられ、挙句の果てに断罪されるという運命にだけはなりたくない。電車内での痴漢の冤罪を晴らすのに何年もかかかり、殺人事件ではDNA判定の科学的進歩を待たなくてはならなかった。それどころか、検察の目論見のために犯人が仕立てられるとは、なんたることだろうか。無辜の市民が犯人とされ、本人はもとより家族までが白眼視される。遠い世界のことではない。いつ自分が、家族が巻き込まれないとも限らない。

本書『突然、僕は殺人犯にされた』はその冤罪でも、もっとも悪質で始末に終えないネットデマと真っ向から闘ったひとりの芸人の記録である。

スマイリーキクチはそんなに有名な芸能人ではないのではないか。ずいぶん前にタモリの「ボキャブラ天国」で名前を知ったが、その後、マスコミの表舞台に顔を見ることは少なくなった。この本の中で、ヨンさまの物まねで注目されたと書いてあったが、そういえば…くらいしか思い出せない。それもこれも、彼を中傷する悪質なデマのせいであったとは、全く知らなかった。

事の発端は単純である。彼が足立区出身で中学時代ちょっと不良であった、ということから同世代の人間が犯した犯罪の一味であると2ちゃんねるで中傷されたのだ。10年も前の話である。少女が同世代の少年たちに陵辱されて殺された悪阻真爺事件である。今ほど、ネット社会が充実していたわけはなく、いわば一部のオタクたちの悪意あるヨタ話が、本人や回りの否定も及ばず、ずっと生き延びてしまったのだ。

たしかにあのころなら「無視しておけば、いずれなくなる」という認識だっただろう。本人もネットを見る習慣がなく、放置してあった。

それがなぜか3年前に再燃する。それは、先日、大学入試試験のカンニングに使われたYAHOO知恵袋の投稿であった。「ある著名な元警視庁刑事が書いた本に、犯人として書かれている」というもので、その本を入手すると名前は出ていないが、間違いなく自分を示す書き方だ。そのときから、彼、そしてその恋人は命の危険を感じるようになっていくのだ。

弁護士、警察、検察とさまざまな場所に相談に行くが親身になってはもらえない。芸能界の引退も考えたそのとき、救世主のような刑事が現れる。彼の捜査によって驚くべき事実が浮き彫りにされていく。真実、彼が犯人だと思っていた者、ふざけてやった者、悪意に満ちた者、顔が見えない人たちだけに不気味である。何もやっていない自分の罪を晴らすための手続きは途方もないものだった。

ネットは便利だ。今回の東日本大震災でも、デマは横行したが否定することも迅速だった。情報の取捨選択は本人にかかっている。検索窓に言葉をいれてクリックすれば、数百万の情報が手に入る。そこに悪意が働けば、がんじがらめにされてしまう恐れがあるのを本書は提示している。巻末の「ネット中傷被害に遭った場合の対処マニュアル」は、まさにスマイリーキクチの戦いの記録ともいえる。この本が役に立つような日が来ないことを心から願う。

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