人間とは何か 『ロボットとは何か』 石黒浩

2010年5月17日 印刷向け表示
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採点:★★★☆☆

「研究」「人間とは」に興味がある人におススメ。さくっと読めます

「生きている天才ランキング」日本人TOP(2007年 SYNECTICS社調べ)の著者による、「ロボットをつくるとはどういうことか」についての解説書。その回答は明快、副題(人の心を映す鏡)にもあるように「人間とは何か」を考えることであると著者は述べている。


ロボットとは何か――人の心を映す鏡  (講談社現代新書) ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書)
(2009/11/19)
石黒 浩

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良い回答は良い疑問がもたらしてくれるものだが、著者の立てた問いは「ロボットに心を持たせることは可能か?」ではなく、「人間に心はあるのか?」だ。正確には「どのようなときに人は心があると知覚するのか?」なのかもしれない。

著者がこの問いに至った経緯は、ひょんなことから劇作家の平田オリザ氏とのロボット演劇(ロボット2台に人間2人)の際の平田氏の役者に対する指導方法である。

平田氏は、役者にも、ロボットに、その立ち位置やタイミングを厳密に指導する。(中略)平田氏は、「役者には心は必要ない」と言い切った。平田氏の指示通りに動けば、必ず演劇の中で心を表現できるというのだ。

実際に、平田氏の指示通り精密にプログラムされたロボットの演技を観た観客は、ロボットに心があると感じることができた。「どのような『心』も観察を通して初めて実際のものとなる」という考え方は、直感に反するし、マトリックスの世界のようだ。(さらに、著者は人間の「好き・嫌い」でさえ、自分の過去の行動を受け入れるための方便ではないかと考えている。)

自由意志の有無を明らかにすることは不可能かもしれないが、その解明には様々な実際的、倫理的な問題が付きまとうと考えられる(人体実験は不可能なので、病気で脳や神経になんらかの欠損が生じた人を被験者として用いなければならない)。しかし、著者はその研究の手を緩める気はさらさら無いらしい。著者の研究に対する姿勢は、ほんの少しだけその世界に足を踏み入れた者からすると羨ましいような、やっぱり俺には無理だから諦めてよかったような、複雑な気分にさせる。

「悪用できない技術は偽者である」(中略)

利用方法を考える以前に、世の中を変える純粋な技術開発が必要なのである。「自らが作り出すものが世の中に悪い影響を与えるかもしれない」という覚悟がなければ、研究はできない。

どんな研究・仕事も「人間理解」に繋がる、という著者の言葉は、何や良く考えずにマーケティングの世界に入ってしばらくして感じたこと、「ブランドとか、マーケティングって人間をどのように見ているかで大きく左右されるんじゃないか」、を思い出させた。

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