「勝負勘」を記述できるか 『ボナンザVS勝負脳』 保木邦仁/渡辺明

村上 浩2010年06月19日 印刷向け表示
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採点:★★★☆☆

人間の「思考」、つまり、人間に興味がある人におススメ。

こちらも新書がベストで見つけた一冊。ひょんなことからコンピューター将棋に興味を持った物理化学者と羽生世代の次を担う永世竜王(当時は竜王)を両者の視点から振り返る一冊。ロボットについて考えることで、人間理解が進む好例。ロボットとは何かと合わせて読むともっと楽しめる。

ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21) ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21)
(2007/08)
保木 邦仁渡辺 明

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1997年5月チェスの伝説的世界チャンピオンであるカスパロフがコンピューターに負けたときは大層話題になったので、ニュースで聞いた覚えがある。1997年当時の戦績はコンピューターの2勝1敗3分けという接戦であったが、2007年当時でもう人間はコンピューターに歯が立たなくなっており、コンピューターの打ち手を参考にチェスの腕を磨くプロまでいるらしい。オセロに至ってはコンピューターの打ち手を理解することすら困難らしいが・・・

本書の主題である将棋は、競技人口/動くお金の小ささ(チェスと比較して)に加えて、打ち手の数の多さからプロとコンピューターの差はなかなか埋まらなかった。著者の「ボナンザ」は従来の将棋プログラミングの常識に捕らわれることなく、より研究の進んでいるチェスのプログラミングを参考に作られている。具体的に言えば、従来の将棋プログラミングは人間の思考に近い結果をもたらす「選択的探索」が用いられていたが、ボナンザではしらみつぶしともいえる「全幅探索」を採用している。この、より機械的な思考方法である(と思われる)ボナンザの打ち手の方が、より人間臭い手を生み出すのだから面白い。

プロと対等に渡り合う「ボナンザ」にも癖があるらしい。

ボナンザの場合は、正しくない場合もその手を選ぶ癖があるわけだ。それを称して、ボナンザが「好きな手」といえば、言えなくもないかもしれない。 ロボットとは何かにもあったが、やはり「好き」「嫌い」は理屈で説明できない自らの行動を正当化しようとする心の現われ(言い訳)なのかもしれない。言葉では説明できない行動もたくさんあるはずだが、「理由は無いが、ただ行動した」では人間はどこか落ちつかない。そこで、「好きだから、行動した」と自らに言い聞かせているのではないか。人間はどこまでも「原因と結果」、「物語」を欲してしまうのだ。

ボナンザの勝負を受けてたった渡辺の言葉も興味深い。

コンピューターのように膨大な計算を正確に短時間で行うことは、人間には当然できない。渡辺も無駄な手を切るときには、その手が好きか嫌いかで判断しているそうだ。

タイトル戦の感想戦でも「この手はどうですか」と聞かれ「それは好みじゃないので考えません」と答えたこともある。周りからはそっけない返事のように思われるだろうが、私の本心である。

もしかしたら人間も、無意識下ではコンピューターのように計算しているのか?渡辺の頭の中に残っている膨大な棋譜の中から類似のモノを呼び出し、その手の利得を計算する。そして、「好き」「嫌い」という形でアウトプットする。なんてことが頭の中で行われているのかも。この辺りに「勘」とか「閃き」の謎が隠されているのではないか。

トッププロとしての、そして、知の最先端で勝負する者としての矜持が渡辺の言葉の節々から感じ取れるので、是非本書で。

本業とは関係のない「遊びか」からボナンザを産み出した保木の、科学に対する思いも負けていない。企業の研究開発方針に関する懸念は、大きくこそなれなくなることはないだろう。Googleのサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジも全面的に賛成だろう。

しかし、日本企業にマーケティング思考が足りなかったのは事実だ。Googleだって、検索広告という非常に優れたマーケティングツールが生み出す大量のキャッシュ・フローがなければ「遊んで」ばかりはいられないだろう。「遊び」の部分はある程度大学などの外部機関にまかせて、企業は売ることに専念するという姿に移行していくのかも。

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