「貢献」はプロに任せろ! 『国際貢献のウソ』 伊勢崎賢治

2010年9月6日 印刷向け表示
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採点:★★★★★

国際機関、国際NGOに興味がある人は必読。「ボランティア」に胡散臭さを感じる人にもおススメ。

日テレの24時間テレビに関して、ネット上では様々な議論がされていた。擁護派からは、「やらない善意よりやる偽善」という言葉が出ていたが、「やる偽善」が常にその受け手にとってよい結果をもたらすとは限らない。現場、最前線で「貢献」を背負ってきた著者の言葉は重い。

国際貢献のウソ (ちくまプリマー新書) 国際貢献のウソ (ちくまプリマー新書)
(2010/08/06)
伊勢崎 賢治

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■あらすじ

大学時代のインド留学時代に始まり、国際NGO、国連職員として世界各地の紛争解決に取り組んできた著者が、自身の体験を振り返りながら、「貢献」の意味、「国益」と「世界益」の関係性、国連などについて解説する。NGOを「貧困ビジネス」と捉え、徹底的にリアルな視点で様々な問題について解かり易く語られている。

■感想

日本のNGOが資金面で圧倒的に欧米諸国のそれに見劣りする理由として、日本に寄付文化がないことがよく挙げられる。著者もその現状に悩みつつ、それでも、欧米の現状を以下のように分析する。なるほど、韓国・台湾に持ち出しでインフラを整備した日本人にはこのような視点は持ち難いだろう。

途上国の資源や労働力をあまりに収奪しすぎると、不満を持つ人間が反乱を起こし、経済システムが崩壊する。だからそれが爆発しない程度に少しずつ対処する。要するに欧米社会は、途上国の人々を搾取するかわりに、彼らがヤケを起こさないように、セーフティネットを作らなくてはいけないということを経験的に学んできたわけです。したがって、欧米による途上国の援助とは、底辺の人たちが死なない程度のセーフティネットを提供することにはほかなりません。

著者はこのような国際協力を「スキマ産業」と呼ぶが、その存在意義を否定しているわけではない。このような活動で救われる人々は確かにいるのだ。

NGO、NPOと聞くと善良な人々がたいした給料ももらわずに、ボランティア活動に励んでいる姿を想像する人が多いかも知れないが、その現実は我々の想像と大きく異なる。そこには、競合との競争や縄張り争い、更には過酷なリストラも存在するのだ。営利企業が他社の売り上げダウンを喜ぶように、貧困国で活動するNGOも活動範囲外の貧困や死亡率には興味を持たない。なにしろ、NGOが活動しない地域では指標が悪化したほうが、そのNGOの評価は上がるのだから。

大学で教鞭をとる著者が、「国際協力」関連の職業に就こうとする学生に与えるアドバイスは明確である。

僕は、まず、日本の普通の営利企業でいろんな社会経験を積む、そこから始めるべきだと、そういう学生にはアドバイスします。嫌なボスの下で働き、我慢する。人間は、社会は、絶対に自分の思いどおりにはならないのだ、という現実を思い知る。そういう経験を積んで、三十代になってから国際協力の道に入っても全然構わないし、欧米では普通のことなのだ、と学生には言います

著者はそのようなキャリアパスでは全くないのだが、援助する側がプロにならなければ、何も貢献できない。現地へ行きさえすれば役に立てると言う考えは、現地の人をとことんバカにした考え方だ。現地にも欧米の一流大学を卒業した人材は一定数いるので、求められるのはそれらの人間を束ねてドナーたちと交渉できるマネージャーだけなのだ。

就職難で日本で働けないのなら、「発展途上国の一流大学へ」行け、というアドバイスは、NGOや国連を目指す学生だけでなく、もはや全ての学生に当てはまるだろう。採用がどんどんグローバル統一されてくれば、今までのようなキャリアでは太刀打ちできない。俺も後もうちょい若かったら・・・

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