裏と表はひとつづき 『中国の地下経済』

村上 浩2010年09月27日 印刷向け表示
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採点:★★★☆☆

「表」の中国に興味のある人におススメ。どぎついアングラ話ではないから余計に恐い・・・

経済でも政治でもとにかく中国の動きが目立ち始めた。日本の2000年の歴史を考えると江戸時代以降の中国との関わりの薄さの方が異常だったのかも。この近くの超大国は無視できない。経済危機以降の中国の「今」を地下から眺める一冊。


中国の地下経済 (文春新書) 中国の地下経済 (文春新書)
(2010/09)
富坂 聰

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■あらすじ

様々な視点から中国レポートを続ける著者による、中国の「地下経済」に焦点を当てた一冊。「地下」なのでその規模や仕組みを知ることは容易ではない。面子の国中国では、共産党によって「地下経済」の存在そのものが公式には認められていなかった。しかし、その存在の大きさは無視できるものではなく、温家宝首相の肝入りでその実態を調べる調査が一年がかりで行われた。その結果は当然非公表のため、本書は著者が様々な人脈を活用しながら集めた「生」の情報から構成されている。

■感想

本書の冒頭で百貨店を訪れた葉という女性が見知らぬ女性から、額面の70%の価格でプリペイドカードの販売を持ちかけられるシーンがある。日本ではこんな話を持ちかけられることがそもそもないが、話しかけられた葉はその話に乗ってプリペイドカードを購入するのである。こんな如何にも怪しい話に乗る日本人もまた殆どいないだろう。

これは、「中国人がリスク意識が低い」という話ではない。一般の女性がたいした疑いを抱くことなく”違法な”カードを購入することができるほど、「地下」が人々の身近にあるということなのだ。

古来、「うまい話には裏がある」ものだが、裏があっても有害でなければ問題はない。葉がこの話に乗っても大丈夫だと瞬時に判断できた理由もその点にあった。このようなプリペイドカードが出回っていることを、彼女は実は噂レベルですでに知っていたのだ。

中国には「灰色収入」という言葉があるようだが、まぁ、いわゆる賄賂である。公共事業に対する賄賂どころか業者の談合でも逮捕される日本とは異なり、中国ではやはり「袖の下」はまだまだ一般的なようだ。かつて国務院の課長代理を務めた関係者が解説する。

(賄賂を)『灰色収入』として表現を緩めているのは、中国社会には賄賂を織り込み済みとして回している一面があるためで、賄賂を渡す側も損はしない。”社会の潤滑油”として存在するものですから、なくなれば渡す側もかえって戸惑うのではないでしょうか
このような背景があるから、葉はプリペイドカードを買う決断ができた。中国における「地下」はアウトローだけが住むところでも、善良な市民には関係のないところでもなく、「表」と一続きで不可分な領域なのだ。中国だけでなくどこの国でも「地下」とはそのような性質を持ったものかもしれないが、この国ではその規模が桁違い。何しろターゲットは「全国民」である。

中国においてもドラッグや買春、賭博をめぐって流れる資金は少なくない。そうしたアングラマネーも、もちろん地下経済を構成する一要素に他ならない。

 だが高級酒や高級タバコが”金券”として流通する中国社会では、地下経済の持つ意味は、およそ日本人がイメージするアングラマネーとは規模も、一般社会との関わりの深さという点でもケタ違いに大きい。

本書には中国社会の「勝ち組」が登場するが、彼らの”勝ちっぷり”はかなりのものだ。本書には「中産階級」として登場するが、国内にはまだまだ安い労働力が豊富にあり、その生活ぶりは我々の想像を遥かに上回っている。官庁や国営企業からビジネスの世界へ飛び込んだ”下海組”の起業家精神はたいしたものだが、彼らは自分たちを真の「勝ち組」とは思っていない。では誰が本当の「勝ち組」なのか?キーワードは『国進民退』である。

本書には他にも「さすが中国!」と唸ってしまう白タク取締りのシーンも出てくる。「地下経済」という切り口から「今」の中国を知るためにもってこいの一冊。

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