『そのとき、本が生まれた』本の都、ヴェネツィア

久保 洋介2013年05月15日 印刷向け表示
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そのとき、本が生まれた
作者:アレッサンドロ・マルツォ マーニョ
出版社:柏書房
発売日:2013-03
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アルド・マヌーツィオ。出版界が生んだ天才で、革命家、そして本の歴史を変えた男である。彼の存在なくして、出版界は今日ほど大きな発展を遂げることはなかっただろう。

いつも鞄に本を一冊忍ばせている人は多いはず。私もそんな一人で、電車やトイレの中など少しでも時間が出来れば、鞄から文庫本を取り出す。私にとってはとても日常的な動作であるが、こんなことができるのも500年前に手軽に持ち運びできる文庫本を考案したアルド・マヌーツィオのおかげである。それまでは机や書見台に置いて広げるしかなかった重い本を小型化することに成功し、読書のあり方を変えた人物がこのマヌーツィオである。

それだけではない。紙面スペースを節約するために考案されたイタリック体の生みの親はマヌーツィオ。ピリオドとコンマを使い始めたのもマヌーツィオ。最初にベストセラーを出版したのもマヌーツィオである。そんな彼の数ある功績のなかでも最大の功績は、なんと言っても、本を娯楽の対象としたことであろう。それまで本といえば主に祈禱など宗教上の道具として用いられていたが、そんな時代に彼は『イソップ物語』や官能表現満載の『ポリフィルス狂恋夢』など、当時の人々が余暇に楽しめる本を出版したのである。今日の読書の楽しみを生み出してくれたのがマヌーツィオ。まさに神さま、仏さま、マヌーツィオさまである。

そんな天才マヌーツィオを生み出したのが、「海の都」ヴェネツィア。ヴェネツィアといえば、その昔は「貿易国家」、そして現在は「観光都市」というイメージが強いが、16世紀前半頃からしばらくは「本の都」としてヨーロッパ内にて絶対的な地位を築いていた。当時ヨーロッパにて出版された本の約半数が印刷されていたのが、ヴェネツィアなのである。

豊富な資本、商業ネットワーク、そして言論の自由。この三要素を満たすヴェネツィアは「本の都」として発展していき、数々の伝説を生み出していく。例えば500年ものあいだ行方不明となっていたアラビア語で印刷されたコーラン。その存在すら疑われていた本であるが、近年ヴェネツィアにて出版されていた事実が判明している。さらに世界初のラビ聖書とユダヤ教典、世界初のギリシャ語やアルメニア語の書籍、楽譜、地図、料理本、と宗教も言語も分野も超えた、あるゆる種類の本が、ここヴェネツィアで生まれてのである。まさに現代書籍文化の礎を築いた都市である。

本書が紹介するのは、書籍文化及び出版業界の起源ヴェネツィアの繁栄と衰退の歴史。本好きにとっては外せない一冊である。それだけでない。電子書籍が台頭する現代や出版業界が苦しむ現代において、16世紀のヴェネツィアで起きた本の革命から学ぶことはたくさんある。どのようにして当時の革命的な形態であった文庫本が世の中に流通したのか、また「本の都」ヴェネツィアはなぜ衰退していったのか、現代の電子書籍革命や日本の出版業界の現状と照らし合わせて読むと、より一層本書を読む楽しみが増えるだろう。

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