21世紀のロックスター 『フェイスブック 若き天才の野望』 デビッド・カークパトリック著 滑川海彦、高橋信夫翻訳

村上 浩2011年01月23日 印刷向け表示
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フェイスブックユーザーや起業家だけでなく、ウェブを使う人皆におススメ


フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた) フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
(2011/01/13)
デビッド・カークパトリック

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「中国、インド、フェイスブック」

日本ではあまり浸透していないが、ユーザー数が5億人を越えた頃からフェイスブックは「国」と比べられる存在にまで成長している。昨年の8月にはYahoo!やGoogle(Youtube等も含む関連サイトの合計)の滞在時間を追い抜き(ソース)、最近では500億ドルというとんでもない評価額が話題を呼んでいる(ソース)。

本書の原題は『The Facebook Effect』であり、創業者マーク・ザッカーバーグがどのような世界を目指しているのか、フェイスブックが我々の生活や考え方にどのような影響を与えるかについて、フェイスブック誕生の瞬間から現在に至るまでの成長の軌跡を振り返ることができる。『グーグル秘録』拙ブログ)も膨大な関係者へのインタビューと周辺事実の積み重ねによる良作だったが、本書も元フォーチュン誌テクノロジー担当編集主任がフォーチュン誌を退職してまで書き上げただけあり、その他のフェイスブック本とは一線を画す出来となっている。

フェイスブック成功の要因や日本でなぜ浸透しないのかといった解説は様々なところで展開されているが、アメリカにおける受験競争の仕組みとその頂点であるハーバード大学発であるということが大きな要因であることは間違いない。学内で「ザ・フェイスブック」が立ち上げられてから2週間後に学内新聞はその爆発的な広まりを以下のように分析している。

われわれは高校時代にハーバードへの入学に有利になるような実績をつむために多大な時間を使ってきた。そのためにわれわれのエゴは、スモウレスラーのように肥大している。・・・・・[ザ・フェイスブック]の本質は、『自分はいかに重要な人物であるか』を世界に向かって訴えかけるためのパフォーマンスの舞台である。ひと言でいえば、それはハーバードの学生が最も得意とするところである。
自分がいかに優れた人間であるかということを表明し続けることを強いられるエリート学生たちが、「ハーバード」というブランドを信頼していることを理解していたザッカーバーグは、ハーバード限定だっザ・フェイスブックを先ずはアイビーリーグから徐々にその輪を広めていったのだ。このような習性は日本の受験エリート、特に理系、にはあまり見受けられない。まぁ、小さな頃から土日も塾にばかり行ってればしょうがないか。

一般的にインターネットビジネスは参入障壁が低いため、先行者優位性とネットワーク外部性を築くことが非常に重要となる。どちらもスピードを求める要素であり、急速な成長を果たすためには事業が生み出す利益よりも遥かに多くの投資が必要となることが多くなる。そのため、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家等の外部資金を頼らざるをえない。お金に興味がない(ように見える)ザッカーバーグには「エグジット」という言葉は存在しないらしく、自らの経営権を手放すことなく資金を調達するために、フェイスブックの可能性に群がってくる手練手管の大人たちと精一杯の折衝を繰り返す。この辺りの駆け引きは非常にエキサイティングであり、本書のハイライトともいえる。例えば、ワシントンポストのドン・グレアムとの約束を反故にせざるを得ない状況に追い込まれて涙を流すザッカーバーグの姿には心を打たれる。デビット・フィンチャー監督の最新映画「ソーシャルネットワーク」で人の気持ちが分からないアスペルガー症候群のように描かれていた姿はそこにはない(映画自体はスピード感のある青春ムービーとして非常に良く仕上がっているが、あくまでもフィクションである)。ベンチャーの資本政策については、人気メルマガisologueでお馴染みの磯崎哲也氏による『起業のファイナンス』(拙ブログ)がおススメ。

ザッカーバーグはどこまでも純粋に「フェアでオープンな世界」の可能性を信じており、自分にはその世界を実現する力があるということに疑いを持っていないように思える。やはり世界を変えるのは大人気ない大人なのだろう(大人と言ってもまだ26歳だが・・・)。「なぜ日本からはマイクロソフトもグーグルも生まれなかったのか?」という質問を聞くこともあるが、ヨーロッパからもそんな会社は生まれていない。アメリカという仕組みはダウンサイドもアップサイドもボラティリティが高いのだろう。

本書にはフェイスブックがどのような戦略で拡大を続けているか、どのようなサービスを仕掛けてきたかについての記述も詳細にあるので、すぐにビジネスに役立てたいという人にも多いに役立つだろう。しかし、何より本書は1人の若き天才が想像を絶する苦悩にもがきながらも、自らの理想を捨てることなく成長し続けるビルドゥングスロマンとして楽しめる。K-1を見た後にがむしゃらに腕立て伏せを開始してしまうように、俺もやってやるぞと思わせてくれる一冊。

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