『なぜ、真冬のかき氷屋に行列ができるのか?』新刊超速レビュー

田中 大輔2013年05月25日 印刷向け表示
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なぜ、真冬のかき氷屋に行列ができるのか?
作者:川上 徹也
出版社:日本実業出版社
発売日:2013-05-23
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湘南の鵠沼(くげぬま)海岸に1年中営業しているかき氷専門店がある。その店の名を埜庵(のあん)という。かき氷屋が1年中営業してどうするんだ?だとか、冬にかき氷なんて食べる人はいないだろう!とほとんどの人は思うかもしれない。しかしこの埜庵、真冬でも行列ができるお店なのである。

“冬のかき氷は、体を冷やすために来るのではない。みんな心が温まりたくて集まってくるんです。”

そう、冬のかき氷も意外とイケるのだ。私もはじめはわざわざ寒い冬にかき氷を食べるなんて、そんな物好きな人がいるのか?と思っていたけれど、友人に誘われ冬にかき氷を食べにいってからは、かき氷の魅力に取り憑かれてしまった。そして昨年の4月に埜庵へいった。そのとき、店主の石附(いしづき)さんがゲラに赤を入れていたので、話を伺うと今度ビジネス書を出すことになってね。といっていた。その本がとうとう発売になったので、さっそく紹介したいと思う。これが埜庵のかき氷同様になかなかイケる本なのだ。

小売店や飲食店などを営む人にとっては気づきの多い1冊になるだろう。「今、冒険をしない、リスクをとらないということが、将来にとっていちばんのリスクになる」や、全ての満足を目指すというより、そのお店を必要としてくださるお客様を作っていくのが重要だ。」といった石附さんの言葉は胸に刺さるものが多い。飲食店を運営していくコツ、スタッフの育て方など、ビジネス書としても、とても有用な本だと思う。でもそれ以上に私は埜庵のもつストーリーに心を惹かれてしまった。

“人生を変えるほどの出逢い、というのは、ある意味、結婚と似ているかもしれません。まさに、「かき氷」との出逢いは、一生の伴侶を見つけたようなものです。結婚するときは、みんなそう思いますよね。でも、実際に、一緒に生活してみると「おやっ?」ということが出てくる”

とは石附さんの弁である。最高の伴侶だと思ってはじめたかき氷屋が、実はなかなか手が焼け、身勝手でわがままな人だったのだ。鎌倉のフードコートで屋台のかき氷屋をはじめてから、鵠沼海岸にお店を構えるまで、かなりの紆余曲折があった。特に鎌倉の屋台時代の迷走ぶりはいまとなっては笑えるエピソードだ。かき氷屋なのに、お祭りでチゲ鍋を売って大失敗をしたというはなしは、ちょっと意味がわからなくておもしろい。

石附さんのかき氷に対するこだわりは、なみなみならぬものがある。かき氷も料理の一つと考えているそうだ。ジャンルでいえば「日本料理」。懐石のいちばん最後に出る「水菓子」の部分だというのだ。食べてみればわかるが、お祭りの屋台のかき氷とは全く別物である。

また、石附さんはどれだけ真剣に氷やシロップに取り組んでいるかというのをお客さんに語ってきかせている。私が食べにいったときも、冬の抹茶シロップは夏と比べるととてもいい抹茶を使っているという話を聞いた。夏は何もしなくても人は来る。逆に冬はなにかないとお客様は来てくれない。だから冬のシロップはどれも手が込んでいて、わざわざ食べにきたいと思わせるものを提供しているとのことだった。まんまとその話につられて、そのときは抹茶のかき氷を注文した。ストーリーというのは人を惹きつける。それをお客さんと共有することで、また来たいと思わせる効果があるのだ。

たかがかき氷、されどかき氷。かき氷に笑うものは、かき氷に泣く、なんのこっちゃって感じだが、かき氷の世界はとても奥が深く、魅力的である。ぜひこの本を読んでその一端に触れてもらうとともに、石附さんの人間的魅力にも触れてほしい。

では、最後にかき氷をおいしく食べるにはどうしたらいいか?石附さんのコメントを引用してレビューを締めるとしよう。

“かき氷でいうと、最後のひと削り、僕らのラストタッチは、食べる人のファーストタッチ。その間の時間は短ければ短いほどいい。かき氷の状態は秒単位で変化していくものだから。(中略)お客様には「出たら早く食べてほしい」と感じます。でも、お客さまの多くは、まずそこでかき氷の写真を撮ってしまう(笑)絶対にいちばんおいしいタイミングを逃しているんですよね。”

ごめんなさい。私も写真を撮ってからかき氷を食べました。その時の写真がこちら

かき氷

次に行くときは、天ぷらのように、出てきたらすぐにがっつくことにしたいと思う。

かき氷屋 埜庵の12カ月
作者:石附 浩太郎
出版社:主婦の友社
発売日:2012-06-01
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埜庵の魅力が詰まったもう一冊の本がこちら。

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