『身の下相談にお答えします』 知らないことは熟女に頼め!

栗下 直也2013年05月30日 印刷向け表示
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身の下相談にお答えします (朝日文庫)
作者:上野千鶴子
出版社:朝日新聞出版
発売日:2013-05-08
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朝日新聞の土曜別刷り版「be」の人気連載である人生相談「悩みのるつぼ」。相談内容も幅広く、週替わりの回答者も多彩だが、その中で、なぜか下ネタ系の質問に重点的に答えてくれるのが社会学者で東大名誉教授の上野千鶴子先生だ。

「なぜか」と書いたが、ある意味必然かもしれない。最近は『おひとりさまの老後』でヒットを飛ばしたが、出世作は四半世紀前の著書『スカートの下の劇場』。やたら下着について詳しくなれる本であるのだが、この本のヒットで本人曰く「学会の黒木香」と呼ばれたこともあったとか(黒木は黒木でも「瞳」ではなく、「香」である。20代の若者は知らないではないだろうか、脇毛を生やしたAV女優を)。いきなり脱線したが、やはり人間、世に出たときのイメージが強いのか、下ネタ相談を中心に答えまくる上野先生の50回の連載分をまとめたのが本書だ。

目次を眺めるとわかるが、青年少女向け雑誌の性相談とは重さが違う。「セックスレスで枯れそうです 主婦35歳」、「妻のカラダに触れたいのに 無職 66歳 男性」、「妻との現場を娘に見られました 男性 46歳」。これらが別刷りとはいえ、天下の朝日新聞に載っているかと思うと、上野先生が言うように世の中、昔に比べれば良い時代なのかもしれない。大手メディアの危機が叫ばれて久しいが、妻との現場を子に見られた父親の危機を心配できるのだから、まだまだ安泰な気がしてくる。歯に衣着せぬ上野節が読みどころなのだが、私の拙い解説より、実際の相談事例を見たほう良いだろう。

性欲が強すぎて困ります 中学生 男子 15歳

上野先生は15歳で朝日新聞読んでいるなんて偉いねーと突っ込みを入れつつ、「異性と付き合うのはめんどうくさいこと」と回答する。確かにめんどうくさいが、そこで終わらないのが上野千鶴子である。めんどうくさいけど、それでも知りたいのならば、めんどうくさいことを避けてセックスを知る方法があると説く。

知らないことは知っているひとに教えてもらうに限ります。経験豊富な熟女に、土下座してでもよいからやらせてください、とお願いしてみてください。断られてもめげないこと。わたしの友人はこれで10回に1回はOKだったと言っています。

全国800万部の朝日新聞で「熟女に土下座」である。本紙ではないとはいえ、「熟女に土下座」である。「週刊大衆」でもないのに、「熟女に土下座」である。それも少年に向かって。しつこいか。ただ、こんな刺激的な6字が全国紙の紙面に躍ったことはあったのだろうか。思わず記事検索サービス「日経テレコン」で検索しそうになったが、会社のIDで「熟女に土下座」履歴が残ってしまうので躊躇してしまったが。

上野先生は性教育についても適切なコメントをしてくれる。私も親になったので何とも気になるテーマである。

息子にどう性教育すべき?主婦 30代

「息子さんにできるだけ早く、正しい性知識を教えてください」と答える上野先生だが当然ながら、それだけでは終わらない。親が正しい知識を教えないと子供同士の口コミ情報や週刊誌などから間違った性情報が仕込まれると指摘した上で、上野節が炸裂する。

ネットのアダルトサイトやレンタルビデオへのアクセス。こちらはもっと問題だらけです。童貞のうちから、顔射なんて覚えられたら困るでしょう?

困る、確かに困る。 性教育をしっかりしないと、熟女に土下座してガンシャしかねないのである。「朝から俺は何を書いているんだ。子もいるのに」と我ながら思うのだが、全国800万部がガンシャって書くものだから仕方が無い。それにしても、ここまでくると、さすがの私でも恥ずかしくて漢字で書けない。朝日新聞はOKでも気品高き我らがHONZではNGなはずだ。さすがに私のパソコンですら、一発変換できないではないか。

上野先生の人生相談はおわかりのように回答を読むだけで、笑いがこみあげてくる。とはいえ、決して奇をてらった回答ではない。思春期に羨望していた男女の交際は面倒くさいことだらけだし、親は子に恥ずかしがらずに性教育をするのが望ましいだろう。土下座したら、イロイロ教えてくれる熟女もいる(はずだ)。回答自体は常に論理的だが、良くも悪くも見も蓋もないのだ。それが最大の魅力だが。

したがって、突き放した回答も少なくないのだが、共通するのは相談者に、決して変な希望を与えないところだ。人間、一番、残酷なのは叶いそうもない希望を与えられることだろう。むしろ、非生活空間である新聞紙上で絶望的なことを言われることで現実社会で相談者は自由になれるのではないだろうか。特に、上野節のコミカルさと過剰さがあれば、吹っ切れるはずだ。「どうだっていいじゃん」って。ムラムラしたからって熟女に土下座しなくても問題ないのである。軽妙な文体に抱腹絶倒しながら、読後には不思議と前向きに開き直る大切さを改めて実感させられる一冊である。

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試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)
作者:北方 謙三
出版社:講談社
発売日:2006-01-13
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「うじうじ悩むな小僧ども、ソープに行け」。80年代末ー00年代初頭に「ホットドッグ・プレス」で連載された北方謙三先生の人生相談での名文句である。この名台詞がない回は、水戸黄門を見ていて印籠をかかげるシーンがないまま終わってしまうような寂しさを覚えた記憶が。 名文句の連載中の回数は4回とか59回とか諸説あるらしいですが。

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