『レイヤー化する世界』―編集者の自腹ワンコイン広告

版元の編集者の皆様2013年06月12日 印刷向け表示
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レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書 410)
作者:佐々木 俊尚
出版社:NHK出版
発売日:2013-06-05
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「キュレーション」のように、一定の領域ではなじみがあるが一般にはあまり使われていない用語を現下の社会情況やコミュニケーションの文脈に沿って位置づけなおすのが、ご存じ佐々木俊尚さんの得意技です。

私たちは、その言葉がもとから持っている意味も考量しながら、新しく付与されたニュアンスや用法をつかって、自分なりに社会やほかの人びととの関係性を理解し、再構築しようとこころみているわけですが、

さて今回は「レイヤー」です。

レイヤーを訳せば「層」ですが、本書『レイヤー化する世界』は、富裕層と貧困層など、社会階層間の格差拡大を弾劾する本でもなければ、地層の奥深くにあるかもしれないアナザーワールドを夢想する本でもありません。ましてや聖子ちゃんカットについて……もういいですね、はい、すみません。

もとい、本書は高度情報化によって変質していく世界の構造そのものを、「層」という概念をつかって捉えなおそうという大きな構えの社会評論です。

Photoshopなどの画像処理ソフトを使っておられる方にとってはなじみ深いこの「レイヤー」という言葉を借りて、佐々木さんはつながりが多層化、重層化してゆく世界を丁寧に描いてゆきます。

それが具体的にどのようなものであるかはぜひ、本書をお読みいただくとして、ここでは本書がいかに著者渾身の作であるか(ご本人いわく「炎の一冊」!)、編集担当者の視点から三つに絞って紹介させていただきたいと思います。

まず本書の特長の第一は、「思春期の若者向けに書いた」(5月28日のご本人Twitter)という意気込みどおり、とにかくわかりやすく、かみくだいて書いてある点です。

とかくビジネス書棚に置かれる情報社会論の本には耳慣れないカタカナ語が頻出し、本当に学ばなくてはいけない「ITはちょっと苦手」層にとって、ハードルの高いものになってしまいがちです。本書では、極力専門用語を使わずに「これまで」と「これから」の差異を解説していきます。

第二は、近未来の社会を論じるために、紙幅の半分ほどを割いて中世から20世紀までの文明史を振り返っている点です。

まさに大いなる前提といったところですが、はやく「これから」のことが知りたい!と逸る気持ちもどこへやら、古今東西の名著からネットニュースまで、さまざまな知見を縦横無尽に援用してキュレーションされた「佐々木流・テクノロジーの文明史」はすこぶるダイナミック。歴史書になじみのない若い人でも飽きずに読めますし、HONZユーザーのようなオトナの読者にとっては、「ああ、コレってアレでしょ? ○○○も『×××』の中で言ってたよね」と教養自尊心(?)をくすぐられること請け合いです。

第三は、その大いなる前提を経て提示される「新しい社会像」のなかで、テクノロジーが新しい権力として明確に規定されている点です。

「レイヤー」とともに、本書には重要なキーワードとして〈場〉という言葉が出てきます。〈場〉は本書において、レイヤー化する世界を構築し、駆動し、管理するテクノロジーそのもの、その世界で支配的なプラットフォーム、またはそうした社会システムの総体など、多義的に使われます。『レイヤー化する世界』は、『〈場〉の帝国』と言いかえることもできます。

これまで、人類はテクノロジーによって便利で豊かな生活を築く一方で、ときに甚大な災厄も引き起こしてきました。その歴史をみれば、これまで権力者は、自らの権力のためにテクノロジーをつかいこなせる者であったといってもいいかもしれません。

しかし、「これから」の世界は「これまで」とは決定的に違う――。そう確信し明言する著者のすがたに私は、IT分野におけるトップ・ジャーナリストとしての矜持をみました。

佐々木さんが描く未来社会は、いままでの世界がそうであったのと同様に、それ自体がユートピアであるわけでもなければ、ディストピアでもありません。

そして本書は、来るべき新しい世界の見え方を巧みなアナロジーや寓話をつかっていきいきと示しますが、その新しい世界であなたがどう生きていけばいいかを教えてくれるものではありません。

だって、ここに描かれている世界は佐々木俊尚というひとりの作家のレイヤーを通して見える世界にすぎないのですから。

しかし私は自信をもって申し上げます。そこに描かれている世界像は、事件記者としてリアル社会の複雑さと理不尽さに通暁し、ITジャーナリストとして茫洋たる情報の海からコンテキストを編んできた著者にしか達しえない、圧倒的な説得力にみちていることを。

NHK出版新書編集部 福田直子

*「編集者の自腹ワンコイン広告」は各版元の編集者が自腹で500円を払って、自分が担当した本を紹介する「広告」コーナーです。

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