『ハウス・オブ・ヤマナカ -東洋の至宝を欧米に売った美術商-』

2011年5月5日 印刷向け表示
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グローバルに戦い、無残に散ってしまったベンチャー「山中商会」という視座で本書を読み進めた。周りで設立当初から世界を視野にビジネス展開を企む20代の起業家が増えている。そういった輩からすれば、東アジアの美術品を大量に売りさばいた山中商会は大先輩の商人である。

まずは本書を読み進めるにあたり、美術商についての理解をする必要がある。「美術商は、価値を見抜くために美術の目利きであること、また、見る眼と資金を持つ顧客といった良質の販売ルートを抑えることが望ましい。」(Wikipedia「美術商」より引用)美術商は「【仕入れ】美術品の価値の理解と発掘力」と「【販売】優良顧客との関係性」この2つが重要なビジネスモデルである。また、仕入れの際も販売の際にも「交渉力」が非常に重要になる。この3点から山中商会及び本書の重要人物である山中定次郎を分析する。

【仕入れ】美術品の価値理解と発掘力:

岡倉天心と懇意にしており、日本を中心とする東洋古美術のことについて、店員たちが暗黙裡に教えを受けていた。美術品の目利きを一流の人間から学んでいた。

また美術品の発掘で光る点は当初は日本の美術品を主な商材としていたが、政治的な動きを読み取り、自ら東洋美術に関する連続講義を開催して、東アジア美術に関する知識を浸透・拡大させていき、新たにアメリカでの中国の美術品ブームを牽引した。美術品仕入れのための拠点を北京に構え、義和団事変や辛亥革命の混乱期に乗じて、中国で大量に美術品を仕入れ、山中商会の東アジア美術品ディーラーとしての世界的名声を高めていった。

【販売】優良顧客との関係性:

美術品競売は富裕層が美しく着飾って競売を楽しむ場であり、新聞や雑誌が盛んに報道し、注目を集めていた。山中商会が毎年催す競売は社交界のイベントにまで発展し、美術品競売を通じて、アメリカ全土で名声と信用を築いていった。また、顧客にロックフェラーなど世界的富豪を顧客とし、ロックフェラーが持つニューヨークの一等地の新築ビルに店舗を構えるほどの親密な関係を築いていた。ロックフェラー家の別荘の内装を目当てとした店舗も構えたほどである。

山中商会の交渉力:

これは美術品とは直接関係ないが、ロックフェラー家との家賃交渉が数字をファクトに鮮明に残されている。交渉とはこうやってやるのか?と目からうろこが落ちる。山中商会の交渉力の粘り強さの象徴として最大61,380ドルだった家賃が35,000ドル+出来高にまで値下げ冴えて契約している。日本の企業がかのロックフェラー家と交渉している現場を手紙の文面より学ぶことができる。

しかし、1930年代から山中商会は世界恐慌、満州事変(中国からの美術品の調達が困難になる)、第二次世界大戦といった大きな時代のうねりに巻き込まれていくのである。

ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商
ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商

また、同時期に活躍し、滅亡した企業として安宅産業も気になる存在。

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