著者インタビュー『「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう 』税所篤快

山本 尚毅2013年07月27日 印刷向け表示
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「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう
作者:税所篤快
出版社:飛鳥新社
発売日:2013-06-11
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グーグルやビル・ゲイツなどから支援を受けるカーンアカデミー、就職ランキング全米No.1のTeach For Americaなど、EdxTechを中心に教育の未来形を指し示す本の出版が相次いでいる。その中で「ドラゴン桜 e-Education」を展開する大学生の若き起業家・税所篤快が2冊目の本を出した。いわゆる社会起業と呼ばれる領域でも、税所氏の活動の注目度は高い。

HONZ代表成毛眞もこのインタビューが気になっており、参加を宣言し、編集長土屋敦にインタビューの同席を薦めるほど。しかし、事前に鼻息の荒かった成毛は約束の時間になっても、やってこない。雑談しながら、待つこと30分。インスパイア社員の方が、何にも悪くないのに謝罪に。すごく謝るのが上手である、あ、これは日常なんだ……と成毛の筋金入りの大人げなさに感服してしまった。

というわけで、本がどんな経緯でできたのか?という雑談の流れのままに、インタビューがスタート。と、その前に内容を少しばかり紹介したい。

この本は、発展途上国の教育問題に飛び込んだ無謀な若者、税所篤快による「旅」の経過報告である。教育の課題解決を志したきっかけは、高校受験での成功体験にある。志望校合格をめざし、「今でしょ!」のキャッチフレーズで話題を振りまく東進ハイスクールに通いはじめた。学校の授業にまったくついていくことができなかった税所さんは、一流講師のDVDを見てその内容に熱中し、偏差値28から、あれよあれよと志望の大学に合格した。しかしそこまでだったら、それほど驚くべきストーリーとはいえないだろう。

彼はその映像授業の方法論を、インフラが整っておらず、貧困と格差が蔓延っている発展途上国に持ち込んだのだ。具体的には、ダッカ市内に複数ある受験予備校のトップクラスの先生の授業を映像化し、都市部から離れた地域にいる受験生に、そのコンテンツを提供する。極めてシンプルな仕組みであったが、バングラディシュの人々にとっては斬新なアイディアだった。プロジェクト名は、落ちこぼれが東大合格を成し遂げる漫画である「ドラゴン桜」から。誰もが直感的に理解できるネーミングも奏功し、国内での応援者も集まった。

そして、構想を形にすべくひたむきに前に前に進み、1年目からバングラディシュの東大と呼ばれるダッカ大学に合格者を出す奇跡を起こした。関係者からの賞賛、雑誌連載と本を出版、数多くの表彰……。そしてワタミ株式会社からの投資を受けて、新しい会社を設立した。しかし、順風満帆に思えた2年目、そこには悪夢が待っていたのだ。

ワタミの支援が黒歴史に

山本尚毅(以下、山本) 冒頭からワタミの渡辺美樹さんなどのやり取りを中心に、本音が炸裂していますが……。

税所篤快(以下、税所) かなり正直にまとめました。実は、基本的にワタミの話はこれまで、クローズで講演でも話をしていませんでした。僕自身にとっても心の傷だったんですが、今回は話そうと。

山本: これはインパクトあるよね。詳しくは?

税所: ドラゴン桜が立ち上がって2年目、2010年にワタミの「みんなの夢アワード」最優秀賞を受賞しました。ワタミ社内のあらゆる部署に挨拶まわりにいって、みなさんに褒めていただきました。だけど、その1年後に「敗者退場」になってしまって……。それからそのことについて、1年ぐらいはうまくしゃべれなくて、自分の中で黒歴史になっていました。実は2年目の後半は経営者としても、代表としてもまったく機能していなくて、半分ノイローゼのような状態で、バングラデシュにもいけなくなっちゃっていて。

山本: どうして?

税所: 2年目をスタートさせて、現地でチラシを何枚も何度も配布したけど、生徒がまったく集まらなかったんですよ。その理由が、広告が足りないのか、値段が高いのか、映像授業そのものが信用されていないのか、さっぱりわからなくて。事業計画は立てたけど、見合った生徒数に全然届かなくて、辛かったですね。そこにワタミの経営陣の方々が視察にきてくださった。そして現状を見て、「事業計画も事業に臨む態度も、大学と事業の二足のわらじで中途半端で真剣でない、学生の遊びではないのか!」と厳しく指摘されました。

その当時は、夢がすり替わっていたんです。1年目の活動は自分=「I」が主語だったのに、いつの間にか主語が出資者にずれてしまって。それに違和感を感じつつも、プロジェクトが動き出していたので、ずれたまま進めていきました。ダッカでワタミの渡邊美樹元会長に「素直になれと、そうじゃないと体も壊しちゃうよ」とアドバイスをもらいました。そして、もうひとつ、「1年目にダッカ大学に合格者を出して、満足しちゃったんじゃないか。そうなったら終わりだぞ」と指摘されました。そう言われて、「ヤバい図星かも」と思いましたね。

山本: その後どうやって立ち上がったの?

税所: そんな状況だったにもかかわらず、マヒン(バングラデシュでのパートナー)が頑張ってくれたおかげで、実は2年目は、1年目の2倍の成果が出たんです。その結果報告の電話がバングラデシュからかかってきて、目が覚めました。そして、もう1つは、和田中学校元校長の藤原和博先生にお会いしたとき、「もっとやっていい、もっと外れて、世界で生きるか死ぬかの日本人離れした経験を積んでこい」と言われました。彼に認めてもらうことで、立ち直れました。そこで、大胆に5大陸で展開しようと決めたんです。

山本: 2年目の挫折を経て、ビジネスモデルも営利から非営利に変わった?

税所: そうです、が、営利や非営利とか関係なく、ただそれは主語をIに戻しただけです。原点に戻って考えると、アフリカやアジアなど他のエリアでも同じ光景があるはずだと、それをやってみたい、そう思って「5大陸ドラゴン桜」をはじめました!それに、このタイミングだったら、利益を度外視しても、許されると思った。家族も奥さんもまだいないし(笑)

サンダーバードの秘密基地を作りたい!

山本: 起業家によく聞く質問なのですが、5億円あったら、どんなチャレンジする?

ーー本題に近づいてくるにつれて税所くんのエンジンがかかってくる、机の中央線を大きく乗り越え、顔を突き出し話しだす。

税所: サンダーバードのようなチームと基地を創ります!!

山本: サンダーバード?

税所: (サンダーバード秘密基地の)場所はもう決めてあるんです。ボストンで、ハーバード大学から歩いて、3分くらいにある一軒家。17万円くらいで借りられるんです。そこを「E-education House」にします。「5大陸ドラゴン桜」で、制覇できていないのが南米大陸なんで、ボストンを前線基地にして、優秀な仲間を集めようと最初は考えていたんですが、どんどん妄想が膨らんでいって……。

まず、基地にはオペレーションルームがあって、5大陸の教育状況が常にアップされています。そして例えば、「今、タンザニアの教育がヤバい!」みたいなアラートが鳴るんです(笑)。国際救助隊ならぬ、国際教育救助隊!

できることなら、一階を道場や茶室にして、掛け軸の裏に秘密の入口があって、そこがオペレーションルームにつながっている構造で。その奥には「四天王」がいて、その4人を倒したら最後に僕が登場、みたいな(笑)。オペレーションネーム:サンダーバード。それを来年の夏にオープンしようと。

税所: お金がめっちゃあったら、ハドソン川が開いて、「あれ」が飛び出すんです。

土屋: 「あれ」ね。いいねぇ。5、4、3、2、1 サンダーバーズ アー ゴー!

ーーここでいきなりおっさん編集長が食いつく。

税所: 飛び出すのはやっぱ、サンダーバード2……

土屋: 2号! やっぱり2号がいちばんいいよね。ハドソン川が割れて、ぐーっとカタパルトがせり上がって……。

山本: (編集長のどーでもいい話を遮りつつ)、えっと話を本題に戻して…(笑)。カーン・アカデミーの活動については意識しているの?

税所: 僕の原体験はやっぱり東進ハイスクール。そこでは黒板を使って講師が繰り出すパフォーマンスに一番ノウハウが蓄積されていました。それに勝るものはないと思うんです。サルマン・カーンはプロの先生じゃないから、ああいう形でプレゼンテーションしたけど、僕たちが撮りたいのは、教壇で長年技を培ってきた、習熟度が高く達人の域に達している教師による黒板を使った授業。黒板と先生のセット、これに勝るものはないと思っています。

山本: それがやっぱり違いだなって思う。それが核になってるよね。世界展開の方法も全然変わってくるだろうしね。

税所: 今、タンザニアのビクトリア湖側の中学校だと先生の数が全然足りなくて、青年海外協力隊の人がかわりに教えているんですね。だけど首都には教え方がうまいイケイケの先生がいる。首都の先生のほうがどう見ても優れているから、授業自体は首都の先生を撮影したビデオを使って、協力隊の方は面談とか教材選びのコーディネートにまわったほうが生徒達にとっていい授業になるんじゃないかなーと思ったんですね。

そういった地域がアジアでもアフリカでも中東でもまだまだ無数にあるんです。こういった国はリソースがあるのに、最大化できていなくて、パフォーマンスの出し方が効率化されていない。それをよくすれば、生徒達にいい授業が届くんです。答えはあるんですけど、それが届いていないです。それを届けるためには、結果と権威が必要なんです。世界的に見て一番権威がつくのは、ハーバード大学だから、僕はそこに入り、その力を巻き込んで、仲間を増やして権威を蓄えつつ、結果も同時に出していこうと思っています。

ハーバード大の先生には今のところシカトされています(笑)

土屋: じゃ、この先もずっと勉強も続けていくの?

税所: そうですね!これから、勉強しますね。米倉誠一郎先生からずっと「勉強しろ」って言われていたんですが、あまり意味がわからなった。実践だけでいいじゃないかと。だけど、最近勉強を積み上げる意味がわかって、やっと7年目にして、大学の授業に出て真面目に勉強しだしました(笑)。それが、今、パレスチナ自治区のガザ地区で、学習障害の子どもたちを教えるために、先生を訓練するプロジェクトにもつながっています。生徒はすぐに卒業しちゃうけど、先生を教育すると……

土屋: 先生のスキルが蓄積されて、継承されていくよね。

税所: その通りです。ガザでは国連パレスチナ難民救済事業機関の支援で22万人の子どもたちが小中学校で学んでいるんですが、そのうち30%が学習障害を抱えている可能性が高いとされているんですよ。でも、ガザには学習障害に対応できる専門家がいない。今、ヨルダン大学の学習障害指導の権威であるムナ先生とマヤダ先生の協力で、映像授業を使って、ひたすらガザの先生たち向けにワークショップを繰り返し、授業の内容をシェアしているんです。

さらに、去年は中東の学習障害の権威から学んだから、2年目はアジアの学習障害の権威から学ぼうということで、アジア代表として早稲田大学教育学部の先生の授業を収録している最中で、9月にガザで「アジアセッション」をやる予定です。

だけど、「アジアセッション」だけだとサッカーで言うと、鹿島アントラーズレベルまできた、という感じです。原点である届けたい対象の人たちのことだけを見たときに、それじゃダメだと思ってます。レアル・マドリードレベルにいくにはどうするかというと、今、受験しようとしているハーバードの教育大学院、その学習障害の権威である先生の授業をガザの先生たちに受けてもらわないと、僕のプライドが許さない(笑)。で、ハーバードの先生にメールしてるんですけど、今のところシカトされてます(笑)。

枯れた技術の水平思考

話は変わるんですけど、ガザとハンガリーでのロマの子どもたちへの教育プロジェクトがはじまってから、藤原和博先生に「E-educationはより教育の本質に近づいた」と言われました。これまでは受験ビジネスだったけど、ガザでは学習障害のための、ハンガリーでは差別や偏見を受ける生徒を取り込むための先生へのトレーニングになっている。ここまでくると、何がドラゴン桜なんだ? ということになって、結局は「その人に取って、一番いい先生とは何か、その人にとって一番必要な教育はなにか?」という問いに近づいていると言われて。

土屋: 確かに何であれ、子どもたちに必要な教育を届ける、という本質的な方向に進んでいますね。ところで担当編集者から何か一言ありますか?

富川直泰(本書の担当編集者)税所くんは、サンダーバードといいドラゴン桜といい、だれでもわかりやすいストーリーを提供することがうまいよね。その起源が、おそらく東進ハイスクールで学んだ、人のアテンションがいかに大事なのか? を守り続けていること。それが他の起業家と違っているポイントかな。

そして、税所くんのやり方は、枯れた技術の水平思考だと思う。日本の予備校ではありふれていたDVDを利用した映像授業を途上国の教育支援という新しい文脈に置き換えた、これがイノベーションの本質だと思うんです。そこが「e-education」で一番面白いポイントだと思っています。ここには、税所くんのオリジナルはほとんどない、2万円のビデオカメラ、東進ハイスクールから盗んだ(笑)ノウハウ、後は仲間力。

税所: インドネシアとマレーシアのボーダー沿いに1人、フィリピン・マニラに1人、ミンダナオ島に1人、そしてバングラディシュにマヒン、そのアジアチームが立ち上げを統括しているのが三輪さん。僕の後輩世代が、税所さんらできるなら、オレでもできるだろうってオーナーシップをもって、展開している。他のNGOとは違うのは、くり返し再生産していることです。僕としてはすごい楽なんですよ。彼らが個人事業主のような感じでやっていて。

富川: 税所くんはシンプルな仕組みを提供しているんです、現地の都合によってカスタマイズできる。

山本: いや、シンプルな仕組み、ここですね。素晴らしい。

土屋: 山本くんたちのやろうとしていることも似たところがあるだろうから、税所さんに相談したら?

山本: そうします。

税所: すみません、そろそろ、授業にいかなくちゃいけなくて。

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ここで突然インタビューは終了。相談しようとしたら逃げられました。

さて、ようやく勉強の意味がわかった大学7年生、颯爽と大学へ。ハーバード大学を巻き込み、世界教育救援隊秘密基地の設立する日もそう遠くないのかも知れない。

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