へうげものワールド全開! 『黄金とわび』

足立 真穂2013年07月16日 印刷向け表示
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日本美術全集10 黄金とわび (日本美術全集(全20巻))
作者:荒川 正明
出版社:小学館
発売日:2013-06-25
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話には聞いていたこの豪華全集。えいやっとついに購入してみた。

ただし、10巻『黄金とわび』を、一冊だけまずはとりあえず。

直接申し込むと、特製のダンボールに入り、袋がついてきた。函入りの布張り、B4判で、月報(関連情報をまとめた別刷)も挟まれており、なんだかお得な気分になってくる。

企画自体は、小学館の創業90周年記念事業の一環だそう。

1966年に刊行された『原色日本の美術』の第一回配本が30万部と大ヒットしたことが素地にあり、今回の企画があがったそうな。

なにしろ2ヶ月に一度、2016年初めまで3年越しの刊行だ。縄文や弥生も追いつつ、現代美術、マンガも網羅し、過去の美術全集とは違う「今」を含めて行くというから鼻息が荒い。

本格的な日本美術の全集刊行は、史上数々あれど、1990年の講談社版以来だそうで、紙の美術全集としては「最後になるかもしれない」とは、編者委員のひとり、山下裕二明治学院大教授のコメントだ(毎日新聞2012年7月5日)(編集委員は他に、辻惟雄、泉武夫、板倉聖哲の各氏)。

関わっている人数もそうとうなものだそう。

背景については、担当編集者の河内真人さんにもろもろお話をうかがってみた。

編集部は4人(ときにフリーのお手伝いも)、編集委員は5人、各巻にテーマごとの監修者がおり、論考をまとめる研究者が数人、図版解説の書き手が5人から、ときに20人。

というわけで、この全集にかかわるスタッフの数は、刊行中なのではっきりとは言えないが、およそ300人から400人(!)になるという。

まさにビッグ・プロジェクトなのだ(詳細はこちら)。

ここまで言われたら、美術には門外漢の私でも紹介しておかねばという気になるというもの。

ちなみに、今回新刊として紹介する発売ほやほやの『黄金とわび』は、10巻目だが、4回目の配本だ。1回目「法隆寺と奈良の寺院」、2回目「若冲・応挙、みやこの奇想」、3回目「宗達・光琳と桂離宮」に続いての配本で、巻数は時代順だが、刊行は話題のテーマから順に行なうとのこと。

扱っているテーマは桃山「時代」だ。いわゆる戦国時代のあと、織田信長と豊臣秀吉は天下統一を果たし、荒廃した京の都を回復させ、新たな町を創る。

冒頭を飾る責任編集・荒川正明さんの「はじめに」によれば、「日本美術史上類をみない大規模な美のスペクタルが展開した」時代だそう。

続きを要約すると、金銀などの鉱山開発で“元祖バブル経済”を謳歌した富豪たちが、美術の魅力、もとい魔術を熟知しつつ、金に糸目をつけずに新時代のイメージを鮮やかに提示してみせた――。

天下人が現世を「弥勒の世」(浄土)に見立てて、自らも周囲をも黄金で包み込んだ奇跡のような美の国、これを304総頁のうち160頁にも及ぶカラーページで、国宝21点、重要文化財60点(巻末リストを数えるだけでも疲れた!)を含む総点数158点の作品写真で、これでもかと見せる魅せる。

見始めたらあっという間に数時間経ち、マンガ『へうげもの』ワールドが全開である。

なのにまったくページが進んでいないこの幸せといったら。

この10巻に私が興味を持ったのは、まずこの「黄金」の華やかさに目がくらんでのこと。

黄金、けっこう好きです。

そして、続いて現れる、千利休が大成する「わび」の世界の対極的なありようが一冊にまとまっていることだ。こういった全集はテーマごとにまとまっているものが多く、案外と、絵画ややきもの、城郭などの建築物、ファッション、そして、茶室や茶道具など茶の湯まわりといった多ジャンルを、時代で横断するようなものは少ない。つまり、その時代の美意識と空気を全体に伝える構成なのだ。

本書には、いくつかこの全集のために新規に撮影したものが含まれており、静岡県熱海市の桃山町(桃山!)のMOA美術館にある、黄金の茶室の写真もそのひとつだ。秀吉が天皇に茶を献じたといわれる有名な茶室で、当時の粋人たちがその豪華絢爛ぶりを記しており、そのもろもろの記録をもとに1988年に復元されたそうだ。天井や壁はもちろん、障子の骨まで黄金で、敷居や鴨居は“金を延ばして包んだ”仕様だったとか。茶筅や茶巾以外は、茶道具もすべて黄金づくりだったというからため息がでる。

「洛中洛外図屏風(上杉本)」(狩野永徳 国宝 米沢市上杉博物館所蔵)も見ていて飽きない逸品だ。

信長が越後の上杉謙信に贈ったもので、都の街並が事細かに描かれている。心憎いことに、2カ所ほどクローズアップされており、母親が子供におしっこをさせていたり、風呂屋なのか女性が客の髪を洗っていたり、京都の市井の暮らしにわくわくしてくる。

「妙喜庵待庵」(みょうきあん たいあん 国宝 妙喜庵 京都)も圧巻だ。

利休作とされる中で唯一現存し、また現存する中ではもっとも古いこの茶室は、内部をなかなか見られない貴重なもの(国宝となっている3つの茶室のひとつ)。これがなんと観音開きページに掲載されており、左右に開いて奥をのぞく愉しみが加えられた。武者小路千家の千宗屋さんにより、本書のために特別に道具が設えられ、普段は使われないこの茶室に息が吹き込まれているのも、なんとも贅沢なことである。

紹介しているときりがない。それは編集された河内さんも同じだったようで、電話で話を聞かせてもらったのだが、15分のつもりがすぐに1時間経っていた。

読んで眺めて、語って終わりのない一冊。

美術ファンだけのものにしておくのは、もったいないのである。

そういえば、黄金の茶室は当時と同じ組み立て式で、出張展示も可能だそう。

桃山時代の天下人に続いて、みなさんもいかが?

私は他の巻を手に入れるかどうか、思案中です。

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