『徳の政治 (小説フランス革命 11)』 by 出口 治明

出口 治明2013年08月14日 印刷向け表示
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小説フランス革命11 徳の政治 (小説フランス革命 11)
作者:佐藤 賢一
出版社:集英社
発売日:2013-06-26
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私たちは、日常、何気なく、右派や左派といった言葉を使っているが、これらの言葉が、実は、フランス革命に淵源をもっていることを知る人は少ない。フランス革命当初の憲法制定国民議会で、旧体制(アンシャン・レジーム、ブルボン王朝)の維持を支持する勢力が、議長席から見て右側の席を占めたという事実に由来するのである。フランス革命は、「自由、平等、友愛」のスローガンで知られているが、国民国家の確立、民法やメートル法等、近代国家に与えたその影響力は、はかり知れないほど大きい。

個人的な推測だが、恐らくは、塩野七生の「ローマ人の物語」を意識して、このフランス革命の全貌を描ききろうとした力作が、「小説すばる」に連載を重ねてきた佐藤賢一の小説フランス革命全12巻である。徳の政治はその11巻であるが、戦友でもあったエベールやデムーラン、ダントンがギロチンで処刑され、辣腕を振るうサン・ジュストに補佐されてロベスピエールの独裁が、最終的に確立する本巻が、恐らく白眉であろう。断頭台に送られる道中でのデムーランとダントンの対話には、人生や政治について本当に色々なことを考えさせられた。佐藤賢一の、いつもの口語体を駆使した特徴のある文体が、政治権力の非情さと政治リーダーの孤独さを、実に巧みに浮かび上がらせる。

最後の巻(9月刊行予定)を残して、これまで、発刊される都度、全11巻を読み継いできたが、フランス革命の喧騒が、まるで大河ドラマや連続テレビ小説を見るように、目前に現出する。人は、食べて愛して子どもを作り、議論して戦って、そして死んでいく。この混沌の中から、近代国家を領導する、さまざまな制度が生まれ、やがて、古い慣習から解き放たれた市民の膨大なエネルギーは、ナポレオンという1人の天才の下に集約され、全ヨーロッパ、全世界に向けて、革命精神が輸出されていくことになるのだ。因みに、本巻で初めてナポレオンも(ちらっと名前だけではあるが)登場する。お盆休みに、じっくり長編に取り組みたい向きには、ぜひ一読をおすすめしたい。

出口 治明

ライフネット生命保険 代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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