8月のこれから売る本-トーハン 吉村博光

吉村 博光2013年08月21日 印刷向け表示
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この夏の暑さはあまりに異常で、気づくと頭がおかしな回転を始めていることが度々ありました。それはいわば、「ひと夏の妄想」とでも言うべきもので、世の中の先行きや私という人間の将来について、次々に連想がつながり、思いもよらない帰結に至るというものでした。過去にも、そんな夏の日があったのを思い出します。将来の進路を考えた、若き夏の日です。

ちょうど、環境問題が声高に叫ばれていた時でしたので、まず、車関係だけはやめようと思いました。家電や衣料品なども、選択肢からはずしました。消費は敵。でも、商売がしたい!・・・じゃあ、本はどうだ。紙はリサイクルすれば良いし、関わり方によってはこの高度消費社会を改めることができるに違いない。・・・大体こんな風にして、出版志望を決めた記憶があります。つまり、私をここに誘ったのは、あの夏の妄想ということになります。

さて、この夏の妄想は、私をどこに誘うのでしょうか。それでは、今月の売りたい本、始めさせていただきます。

機械仕掛けの愛 1 (ビッグ コミックス)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2012-07-30
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機械仕掛けの愛 2 (ビッグコミックス)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2013-07-30
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チャブ台返しで有名な名作漫画、『自虐の詩』の業田良家氏最新作です。しかも、第17回手塚治虫文化賞短編賞受賞作とくれば、それだけでも手が伸びる方が多いと思います。この7月に2巻が発売になったばかりで、オリジナルペーパー付きの展開をされている都内の書店で購入しました。介護ロゴ、ペットロボ、ロボット神父・・・愛も痛みも感じぬキカイが、ヒトの想いを守り続ける。そんなオムニバスストーリーの数々。

例えば、亡くなった派遣先の子どもとの想い出を、その母親の命令で必死で残そうとするロボットの姿が描かれていました。私は、複雑な思いで涙を流しました。介護ロボが現実的なものになりつつある昨今、キカイとヒトとの関係は、一体どうなっていくのでしょうか。将来のことを考える、この夏の妄想のキッカケを与えてくれたのは、この本でした。

里山資本主義  日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
作者:藻谷 浩介
出版社:角川書店
発売日:2013-07-10
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『デフレの正体』の藻谷浩介さんの新刊です。読む前にネットで調べたところ、机上の空論とか、現実を知らないとか、すでに様々な批判にさらされていました。でも、一読したところ、私には完全無欠の本のように感じました。読んだ後もしばらくカバンに入れておき、読みかえしつつ、何故そんな批判が出るのか妄想を繰り返しました。やがて浮かび上がってきたのが、西南の役で抵抗を続ける武士の姿でした。

マネー資本主義を牛耳っている(いまの世の中を動かしている)人は、安心立命の為に、当然それを守ろうとする心理が働きます。いやむしろ、自分が生きてきた社会の常識に、がんじがらめにされてしまうのです。でも一歩引いて考えると、その経済社会の「常識」は、たかだか100年程度のものでしかなく、もちろん絶対的なものではありません。長さとしてはその何倍もあった武士社会の「常識」でさえ、今や鑑賞されるだけのシロモノです。遠くで大量生産された野菜を消費するために、多くの燃料が使われ、結果的に多量の食料が廃棄される常識。その一方で、食べ物に困っている人がいる常識。それは仕組み上、仕方がないことだと、多くの人は諦めているのかもしれません。でも、藻谷さんは諦めていないのです。

ちょうどその頃、同じく“諦めてない”本を読みました。『詩羽のいる街』という小説です。主人公の詩羽という女性が、余っているモノと人をつなげ金銭を経ずに交換して、街を変えていく物語です。藻谷さんの主張と、多くの部分でシンクロしているように感じました。やがて頭の中では妄想が始まり、剛力彩芽演ずる主人公・詩羽の姿が、生き生きと浮かび上がってきたのです。明治の世の中に変わったキッカケは、黒船でしょうか。里山資本主義の世の中に変えるのは、詩羽なのかもしれません。

未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる
作者:ちきりん
出版社:文藝春秋
発売日:2013-06-12
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藻谷さんの本を読んで、私の頭の中には、マネー資本主義から里山資本主義に変わりつつある世界。という妄想ができつつありました。そんな中で手にしたこの本には、「産業革命に匹敵する、社会の変化が起きている」と書かれていました。「働き方」というのは非常に身近なテーマなので、早速買って読むことにしました。

この本の根本にあるのは、「学校を出て、就職した会社で定年まで勤めて、悠々自適」という“あるべきスタイル”は、極々最近のものでしかなく、早晩成り立たなくなるという論点です。例えば、私の世代の年金支給開始は70歳以降になる可能性が高いと書かれていました。でも、だからといって本書は、消極的な生き方を進めているわけではありません。激変後の社会を楽しく生き抜いていくために、これまでの常識にとらわれない準備をするように、提案しているのです。

「人生は二回生きられる」という言葉とともに、とくに40代以降の働き方について論じられています。「じゃあ自分はどう働こうか」と、そこで妄想がメラメラ。というか、前から少しずつ、考えてきたことなんですけどね。40過ぎて長男が生まれたわけですし、年金をめぐる社会情勢もあるわけですから、“あるべきスタイル”通りの人生なんて、私にはきっと無理に決まっていますから。少なくとも、長男が成人するまでは「働く親父の背中」を見せたいと考えています。もし贅沢を言わせてもらえるなら、生涯現役で働いてダービー馬のオーナーになり、心臓発作でもおこして、喜んで競馬場の芥になりたいと思っています。私の将来シナリオは、そのレンジでおさめたいですね。

さて、40代からの生き方について、最近、私の心に響いた名言(書名ですが)があります。ひとつ、ご紹介させてください。

「40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。」 by 成毛眞

これらの本に誘われ、明日私は、20年ぶりに船に乗って、釣りに行くことにしました。この先の未来が、楽しみになってきました。あ、これも妄想でしょうか。

吉村博光

トーハン勤務

夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。

ほんをうえるプロジェクト https://www.facebook.com/honwoueru

TEL:03-3266-9582

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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