『HIGH LINE』 みんなで夢を

高村 和久2013年08月19日 印刷向け表示
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HIGH LINE アート、市民、ボランティアが立ち上がるニューヨーク流都市再生の物語
作者:ジョシュア・デイヴィッド
出版社:アメリカン・ブック&シネマ
発売日:2013-08-06
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マンハッタンの地上9mにある、全長1.5マイルの高架鉄道跡。解体の危機にあった「ハイライン」を保持すべく活動を開始したのは、2人のゲイの青年だった。最後の列車が高架を通ってから19年後の、1999年のことだ。2人は、別々にハイラインに興味を持った。新聞記事を読んで興味を持ったロバート、雑誌の取材でウェスト・チェルシーを歩いていて高架の存在に気づいたジョッシュ。彼らがコミュニティ・ボードの公聴会に参加し、名刺を交換したのが物語の始まりだ。ちょっとイケメンだと思ったジョッシュがロバートの隣に座った、その公聴会で、ハイラインの保存に興味があるのが、じつは彼ら2人だけだったということがわかった。15年に渡って撤去を求めていた人などは、ハイラインは地域にとってマイナスで、いつ崩壊してもおかしくなく、地域の経済発展を邪魔しており、高架下は暗く危険だ、と激烈に言った。保存活動は、余暇の活動にしては非常な大仕事になりそうだった。とにかく、撤去する以外のやり方はないだろうか。2人はお互いに、君がやればいいと押しつけ合いをした。これが仕事になるとは思ってもいなかったし、そんなつもりもなかった。

それから10年、2009年にオープンした都市公園は、訪問者数が年間200万人を超えるなど、予想以上の人気となっている。地域に対する経済効果も試算以上だと言う。2人は、今、NPO法人「フレンズ・オブ・ザ・ハイライン」のCo-Founderとして公園の運営を行う立場だ。本書は、彼らの10年越しの活動を、コメントを交互に並べた形で振り返る。後半は写真のページとなっており、前半に書かれていた内容をイメージで確認することができる。また、本書はきっと、フレンズ・オブ・ザ・ハイラインを支援してきたメンバーに宛てた本でもある。「あの時はこんなことで困り、その時には誰に誰を紹介してもらった」というようなことが詳細に書かれており、ハイラインの成長過程を改めて確認することができるのだ。

専門知識を持っていなかったことこそがハイラインの成功のカギとなった。何もわからなかったので、人に頼らざるを得なかったのである。そういう人たちがぼくたちに肩入れし、指導し、わからないことを代行してくれたからこそ、ハイラインの計画が実現したのだ。

最初にNPO法人をつくった時は、マリオの会社の弁護士たちに「プロボノ活動」を依頼し、また、最後に公園運営能力に疑問を持たれた時は、ジョンのネットワークを頼り、市の公園管理委員長に応援を依頼した。それ以外にも、グランドセントラル駅やMoMAで展示を行い、個人から1000万ドル規模の寄付金を獲得し、ブルームバーグ市長の支援を取り付けるなど、フレンズ・オブ・ザ・ハイラインの「巻き込み力」には目を見張るものがある。急速に支援者を増やした事例として一読の価値があることは間違いない。また、本文を読むと、その成長がボトムアップであったことがよくわかる。友人の知り合い、仕事上のつながりなど、弱い繋がりのネットワークによって適切な支援者につながっていく様子と、その多様性・偶然性が興味深い。「ハイライン」というコンテンツ自体にも魅力があった。許可を取得して野草が生い茂る高架に上った写真家は、「ぼくにこの仕事をさせてくれ。1年間、ここへだれも上げないでくれ。そうしたらすばらしい写真を撮るよ」と言った。撮影された写真はパンフレットになり、プロジェクトの中心的役割を果たした。また、ジョッシュは、オープン前夜の公園が完成予想図そのままであることに驚いた。通常、完成予想図というのは理想のイメージであり、その通りになるとは限らない。同じになったのはメンバーの熱意のあらわれである。

ハイラインは、1インチも余すところなく、園芸用ピンセットと研磨剤を持った作業スタッフによって手入れされていた。ガラスや金属部分はピカピカに磨き上げられ、植栽床はごく自然に見えるよう掻き起こされた。

「途方もない使命を背負った2人の一般人」。ハイラインの奇跡的な成功を記事にしたジャーナリストは、このように表現した。最初の1年は、チラシを貼り、人に会うだけで終わった。解体の危機を脱して市の認可証をもらうためには5年以上かかった。反対派が優勢になったり、9・11やリーマンショック等、難しい時期が連続する中、それを乗り越える過程で発揮されるチャレンジ精神が印象的だ。それは支援者全般に見られる。都市計画委員のアマンダは、公聴会で「実現するわけが無い、現実離れしすぎた話。夢物語だ。」と言われ、「いつから夢をもつことが悪いことになったのでしょうか。この街は夢で成り立っているんですよ。みんなで夢を追うべきです」と言った。デザインの最終選考の際には、都市計画局長が「あなたたちが求めているものは、よくなると確信がもてるデザインですか。それとも、うまくいけば最高、というデザインですか」と言った。もちろん後者だ。営業担当の新人が、オペラ専攻のシャイな人間だった、というのもおもしろい。なくてはならない人材に成長したそうだ。誰にも気にされていなかった廃線は、このような物語を含みつつ、公園に生まれ変わった。ニューヨークらしい、新しい観光名所である。


The official Web site of the High Line


ロバートのTED talk

ジェイコブズ対モーゼス: ニューヨーク都市計画をめぐる闘い
作者:アンソニー フリント
出版社:鹿島出版会
発売日:2011-04-06
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ジョッシュがハイラインの活動を始めたのは、ジェイン・ジェイコブズを読んだ直後だった。

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