『風に吹かれて』 風が吹くから、おもしろい。

高村 和久2013年08月29日 印刷向け表示
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風に吹かれて
作者:鈴木 敏夫
出版社:中央公論新社
発売日:2013-08-10
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本書は『rockin'on』『CUT』などを創刊してきた音楽評論家・編集者 渋谷陽一さんによる、スタジオジブリ プロデューサーの鈴木敏夫さんへのインタビュー集だ。もともとは、『CUT』誌に掲載されたインタビューをまとめた本になるはずだったが、ジブリの最初の頃の話を付け足したいという渋谷さんの提案で、半分以上のページがオリジナルのインタビューになっている。

「まえがき」は、このように始まる。

宮崎駿も高畑勲も、鈴木敏夫が居てこそ作品が作れる、ジブリは鈴木敏夫が居てこそのジブリなのだ、と言う人は多い。僕もそう言ったりする。しかし、実際のところ鈴木敏夫が何をしているのか、それは他の人をもって替えることは不可能なのか、それを正確に言える人はいないのではないか。

計10時間、2日間に渡るインタビューが予想外に「幼少時の質問」から始まった時、鈴木さんは、付け足しどころか丸裸にされる、と思ったそうだ。渋谷さんは、今までで3本の指に入るインタビューになったと喜ぶ。

本書は、とにかくおもしろい。思わずニヤリとしてしまう話の連続だ。現場の会話も、さぞかしおもしろかったに違いない。学生時代の話も、『アサヒ芸能』の頃の話も、スタジオジブリを作った後の話も、そこで登場する人たちの話も、無茶な話ばかりだ。渋谷さんの合いの手が、時折「はははは」だけになるのも頷ける。どんなビジネス書よりエンターテイメントについてわかる本ではないだろうか。

本書は、ただおもしろいだけでななく、しばしば印象深いコメントが登場する。

あのね、例えばこういうことがあるんですよ。自分がやってきたことを言葉として整理して、俯瞰してものをいうということはやめようと思ったんですよ。

「総括しない」というのが鈴木さんの一貫したポリシーだ。もっと言えば、不確実、未完成を好む。総括できるということは、概念化され、消費され、もう生きていない、ということだ。などと、概念化してレビューを書いている自分が気になるが、そんな矛盾を抱えつつ書き続けるという生き様自体が未完成だろうか。よくわからなくなってきたが、きっと、よくわからないほうがおもしろいのだ。

未来のプランについても同様だ。

そうなんですよ。その就職の季節に、いったい自分で何をしていこうかなって真面目に考えたら何もないんですよ。本当になかった。

それも考えてなかったけど。考えてないんです。要するに、ビジョンがないっていうのが3人の特徴ですよ。イメージがないんですよ。だって35年、いろんな機会に顔を突き合わせてきたけれど、3人で過去の話ってしないですからね。いつも今の話。

ピダハンのごとく、将来を考えない。波風は立ってなんぼだ。まわりの人もムチャクチャでおもしろい。鈴木さんは、トラブルをおもしろく受け止める。

宮崎駿さんと高畑勲さんとの関係については、このように述べる。

結局、宮さんとは『カリオストロ』から、高畑さんとは『じゃりんこチエ』から、ほとんど毎日会っているんですね。要するに、映画をつくっていないときも会っているんですよ。なんでかそれが習慣化したんですよ。それでなんか話をする。向こうもそれに応じてくれる。で、たまに仕事の話をする。

頭来てね。それで僕、二人としゃべるときは、一言も漏らさず全部メモするようにしました。そして別れた直後に、喫茶店に入ってそれを文章化するんですよ。それで、二人の考えている内容、それからしゃべり口調を、もう全部覚えました。

鈴木さんは、こういうことをしてきたのだ。いっぽう、宮崎駿監督は、最近刊行された『腰ぬけ愛国談義』の戦闘機の話、大正時代の電信柱の話、夏目漱石の話などを読んでもわかるように、膨大な量のインプットとアウトプットを日常的に行っている。宮崎監督が、「総括せず、おもしろいものを選択できる」鈴木さんを相手に、膨大な数の引き出しから、これはどう、と次々にアイデアを披露するのが、スタジオジブリの日常なのだろう。映画は、そこから生まれるスナップショットだ。

インタビュアーの渋谷さんは、鈴木さんについて、このように述べる。

僕はポップ・ミュージックと長くかかわって来て、ポップ・カルチャーの本質は、その表現の中にいかに他者の視線をとり込むことができるかどうかだという事だと気付いた。

彼は、学習することなくポップとは何かを知っている人なのだ。

言葉がどこまで意図を伝えるかは、受け手次第なところがある。インタビュー形式の自伝のようになった本書は、どこまで本人の意図に合っていたのだろうか?鈴木さんは、インタビューを受ける際、渋谷さんの昔の発言を思い出した。

「だれしも時代の洗礼を免れることはできない」

おそらく20年以上前のことだろう。それを僕はずっと憶えていた。同時代を生きたからこそ、分かることがある。それを信じて、僕は今回の企画に乗ったのだ。

同じ時代を生きたという事実は、言葉というスナップショットを補う想像力を与えただろうか。そして、本書は世の中に出てきた。さてどうなるかなと、楽しみにしているように。

半藤一利と宮崎駿の 腰ぬけ愛国談義 (文春ジブリ文庫)
作者:半藤 一利
出版社:文藝春秋
発売日:2013-08-06
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昔の隅田川を見てみたくなります。

風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡
作者:宮崎 駿
出版社:ロッキング・オン
発売日:2002-07-19
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渋谷さんによる宮崎駿監督のインタビュー集。

零戦 その誕生と栄光の記録 (角川文庫)
作者:堀越 二郎
出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2012-12-25
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仲野徹のレビューはこちら

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観
作者:ダニエル・L・エヴェレット
出版社:みすず書房
発売日:2012-03-23
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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