HONZ活動記-JAMSTEC見学訪問③

野坂 美帆2013年09月26日 印刷向け表示
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興奮と充実感に包まれたまま会議室に戻ると、次はなんと海洋工学センター観測技術担当役・土屋利雄さんが直々にJAMSTEC技術開発の歴史をお話しくださるという。なんなんだ!贅沢すぎるじゃないですか!土屋利雄さんは、主に水中音響工学を研究なさっていて、科学技術長官賞にも輝いた実績を持つ海洋工学のエキスパートだ。JAMSTECでは探査技術開発に広く深く長く関わってこられた。おしゃれなスーツ姿で登場。理系渋メン・・。いや、注目すべきはそのようなところではない。

報道室・長谷部さんから他の見学会での話とは違った話をと言われちゃって、と出だしから一笑い。プレゼン上手の土屋利雄さん。無人探査機の話などは日経BP社ナショナルジオグラフィック日本版サイトにて連載中「海の研究探検隊JAMSTEC」でも出てくるので、今日はそのさらに前の話、JAMSTEC初期の技術開発の話をとおっしゃってスタート。

有人潜水調査船「しんかい2000」から携わってこられたというから、すごいキャリアだ。「しんかい2000」は日本初の有人潜水調査船「しんかい」の後継機として1981年に完成、2004年まで運用されたもので、現在の「しんかい6500」は3代目ということになる。現在JAMSTEC内でこの時代からの歴史を背負う、数少ない研究者の1人である。土屋利雄さんの入所は認可法人時代、設立間もない1973年。まともな建物もない、もちろん船もない、仮事務所暮らしからのスタートだった。

土屋利雄さんは、探査機「ディープ・トウ」について語る。深海において探査するというのは、実は非常に大変な作業である。暗い、寒い、圧力が高い、深海での作業というのは三重苦を課せられる。特に水圧の負担は大きい。レポート2でも述べたが、水の重さを克服するのに、多くの研究、技術開発が求められた。また、これも前述したが、海中での探査、通信の問題がある。電波が使えない、という状態をどう克服するか。水中音響工学の専門家である土屋利雄さんは、まさにその海中探査、通信技術の発展に力を注いでこられた。設立間もないJAMSTECの追い風となったのはオイルショックだ。海洋資源への期待が高まり、海洋開発に多くの目が向けられるようになった。

しかし、日本はそのころ、造船技術は一流であっても、海洋探査技術は欧米に比べて出遅れていた。特に深海探査技術は皆無と言っていいほどの状況だったという。アメリカから深海探査システムを購入し、徹底的に研究した。得るべき技術、発展させるべき技術はたくさんあった。深海曳航技術、深海TVカメラ、サイドスキャンソナー、サブボトムプロファイラ、音響航法システム、耐圧容器技術、深海係留技術・・・。科学技術庁の予算がおり、ひたすらに研究する日々。深海探査機を作ること。深海底の探査研究を目的とするそれは、大きく言えば資源の乏しい日本を救う、光明となる研究だと思われていたかもしれない。

でも、と思う。技術の歴史を、素人にもわかりやすく噛み砕いて説明する土屋利雄さん。どことなく胸を張って、楽しそうに話す姿は、そんな重いものを感じさせない。技術先進国に追いつきたい。未だない技術を開発してみたい。そしてその結果、人間が未だ見たことのない世界を解き明かしてみたい。そんな純粋なエネルギーがある。JAMSTECは、「海の研究探検隊」。まさに、そうだ。日本が開発した深海の映像をデジタル信号化して音波で母船に送り、ほぼリアルタイムで見ることができる技術、超音波デジタル画像伝送装置開発のお話になると、ただ聞いているだけの私も何だか誇らしい気分になってくるのだからずうずうしい。

ジェームズ・キャメロン監督の潜水への耽溺ぶりに妙に感嘆しつつ、タイタニック号発見の話からJAMSTECが深海探査であげた成果も紹介される。沖縄からの疎開船「対馬丸」発見。太平洋戦争中の1944年、アメリカ潜水艦「ボーフィン」が疎開船「対馬丸」を攻撃し、船は沈没。学童780人を含む、1476人の犠牲者を出した。沖縄からの疎開船187隻のうち、犠牲者を出したのはこの1隻のみ。沖縄では今も生々しく記憶されている事件である。詳細はJAMSTEC対馬丸調査ページにてご覧いただきたい。微細な物体も探査できるサイドスキャンソナーが大きな力を発揮した。深海探査技術は、研究のためだけでなく、広く日本のために役立てられている。

お話の中で気になり、またHONZメンバーからの質問も投げられていたのは、造船技術に代表される、ある種の海洋関連製造技術が失われつつあるという実態についてだった。例えばJAMSTECに限って言っても、巨額の予算を投入して作られる最新の探索機は、毎年作られるわけではない。有人探査機はこれでやっと3代目だ。補修などメンテナンスは行われるものの、実際に製造する機会はあまりにも少ない。エンジニアからエンジニアへ継承されることのなかった、テキスト化できない技術が失われていく。あの探査機を作った企業に、と来る依頼も、今はそれを製造できるエンジニアがいないから、という理由で断ってしまうという。

JAMSTECは、国内の企業と共同研究し、新しい技術を開発、製品化してきた。しかし、国内メーカーは撤退していく。世界規模での販売戦略がなかった。JAMSTECで使われる海洋機器も外国製が多い。技術開発だけでなく、製品化して販路を確立する、その重要性も熱く語られた。開発、実用化、製品化、販売、その流れを作ることで、生産を持続させる。技術開発、技術継承を支えるものは研究機関だけではなく産業界でもあるのだと、考えさせられる。技術開発だけが注目されてはいけない。開発された技術を継承していく、「守り残すシステム」の開発こそが、もしかしたら今一番必要とされているのかもしれない。そして、それは、できれば軍事に守られるものではなくあってほしいと思った。

町工場が無人探査機を作るプロジェクト「江戸っ子1号」とJAMSTECとのかかわりについても興味深い。協力する中で、今まで輸入に頼っていた部品を町工場で安定生産できるようになったという。ここには少し明るい、新しい海洋関連製造現場の未来がある気がする。

深海研究や気候変動研究など、今JAMSTECの活動で注目される研究は多々ある。しかし、そのどれもが、工学の発展なしには成り立たなかった。JAMSTECの歴史は、いつでも技術開発とともにある。新しい技術が開発されれば、また、多くの研究が先に進む力を得るのだ。そう胸を弾ませ、またその陰にある産業としての問題に心寂しくなる、そんな時間だった。

お腹も寂しくなったので、この後は食事休憩。お待ちかねの食堂レポートは、レポート4大河内編の後におまけとして追記したい。(つづく)

<関連リンク>

JAMSTEC-独立行政法人海洋研究開発機構

国立科学博物館 特別展「深海-挑戦の歩みと驚異の生きものたち-」

ナショナルジオグラフィック日本版【連載】海の研究探検隊-JAMSTEC

江戸っ子1号プロジェクト公式ウェブサイト

「JAMSTEC(海洋研究開発機構)を楽しむ8冊+α」by土屋敦
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