『東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ』

刀根 明日香2013年09月26日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ (新潮文庫)
作者:朽木 ゆり子
出版社:新潮社
発売日:2013-08-28
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

「美術品の世界へようこそ!」と両手を広げて迎え入れてくれるのは、本書の著者、朽木ゆり子さんだ。朽木さんが描く、美術品の背後に渦巻く歴史の数々に、読者は息をつく暇もない。ノンフィクション特有の、頭の中に次々とわき起こる知的興奮で四六時中頭がいっぱいになる。そんな著者の代表作、『ハウス・オブ・ヤマナカ』が文庫版として再登場した。

本書の序章だけ紹介したい。タイトルは「琳派屏風の謎」だ。「琳派」といえば、俵屋宗達の『風神雷神図』や、尾形光琳の『紅白梅図屏風』などを学生時代に資料集で見たことがあるかもしれないが、ここで登場する琳派屏風は『渓流花木図屏風』である。現在、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵しており、六曲一双、つまり6つ折りの屏風が左右で1セットである。右隻から左隻に向かって渓流が流れ、季節は右の春から左の秋へと移行している。一双揃ったときの、非対称性の魅力が人気を博している。

実はこの屏風、メトロポリタン美術館が右隻と左隻を別々に購入している。日本を出るときはセットであったのに、それぞれ違うルートを通り美術館に辿り着いた。どのような経緯で、誰の手に渡ってきたのだろうか。実は、この過程で本書の主人公、「山中商会」が重要な役目を負っている。

「東洋の国宝級名品を欧米に大量に売却した伝説の美術商」と称される山中商会。19世紀末のニューヨーク、続いてボストン、シカゴ、ロンドンなど世界中に進出し、日本美術の一大旋風を巻き起こした。山中商会のお得意様は、数々の名匠や美術館だが、そのなかでも日本美術の最大の貢献者であるアーネスト・フェノロサの存在は大きかった。日本の美術品の多くは、フェノロサのような海外の人物によって価値付けされ、新たな文化を創造していった。

さて、『渓流花木図屏風』の話に戻ろう。1904年にオークションが開かれ、幻の屏風は競りに出された。ここで左隻の「秋」を購入したのは、実業家ヘンリー・オズボーン・ハヴマイヤーである。山中定次郎をオークションに送り、5万フランという巨額で競り落とした。しかし1915年、メトロポリタン美術館は山中商会から左隻を購入している。ハヴマイヤーの手に渡ったものが、11年後山中商会から美術館が購入とは、どういうことか。

不思議なのはこれだけではない。右隻の「春」は、左隻が美術館に渡ったずっと後の1949年、バヴマイヤーの子どもから美術館に寄贈されたのだ。左隻を買ったはずのハヴマイヤーが、右隻を持っていた。『渓流花木図屏風』が辿った経路は長年謎とされてきたのだが、著者朽木ゆり子さんによって初めて明らかにされた。山中商会について、ほとんど資料が残っていないなか、美術品の買い手に着目し、世界各国の図書館で長年資料と格闘した著者の努力の賜物が本書なのだ。

ここまで書いた物語すべてはまだ、序章の段階である。まだ物語の前置きなのに、この密度! 分かっていただけただろうか。本書はこのあと山中商会の盛衰を追っていく。著者の丹念な調査による豊富な文献資料は、物語をリアルに想像させるため、読書後も頭の中に残った鮮明なイメージは絶えることを知らない。私には手に負えない怪物である本書を、是非手に取り、ダイナミックなストーリーに酔っていただきたい。

パルテノン・スキャンダル (新潮選書)
作者:朽木 ゆり子
出版社:新潮社
発売日:2004-09-18
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

大英博物館最大の見せ物、パルテノン・ギャラリーについて。ギリシャ彫刻にめちゃくちゃ詳しくなった気がします。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら