『FBI美術捜査官ー奪われた名画を追え』

久保 洋介2011年07月25日 印刷向け表示
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FBI美術捜査官―奪われた名画を追え
作者:ロバート・K. ウィットマン
出版社:柏書房
発売日:2011-06
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舞台はマイアミビーチに向かって走る防弾ガラス付きのロールスロイスから始まる。時速150kmで走るロールスロイスが向かった先は、金貨を片手にシャンパンを楽しむコロンビア人ディーラーや、ビキニ姿で二十代後半の締まったボディーをさらす美女達が乗る豪華クルーザー。船上で繰り広げられるのはドガやダリ等の盗難された美術品の売買。

いかにも犯罪者たちのパーティーという感じだが、同乗したギャング2人はまだ気づいていない。この船上パーティーは、ボストンの美術館から盗み出されたフェルメールやレンブラントの作品を回収するためにFBIが仕込んだものであることを。危険な香り漂うディーラーや美女達は全員拳銃を忍ばせたFBI潜入捜査官だ。

まるでハリウッド映画のような滑り出しだが全て実話。ノンフィクションである分、映画や小説よりも数倍面白い。それもそのはず、著者は数百名いるFBI捜査官の中で唯一美術犯罪を専門に担当した元潜入捜査官、ロバート・K.ウィットマン(日本人の母親をもつ日米のハーフだ)。彼は、FBIに在籍した18年間で合計二億二千五百万ドル(約180億円)相当の盗難に遭った絵画やアンティークを潜入捜査によって回収した、特殊な経歴をもつ捜査官である。

取り戻したのは、ロダン、レンブラント、売買が禁じられているインディアンの首飾りなどどれも価値の高い作品で、世界中のメディアがこれら事件の解決をトップニュースとして報じている。これら作品がいかにして奪還されたか、潜入捜査の現場を生々しく描写しているのが本書である。偽装工作としてウィットマンが闇のディーラー装い犯罪者と信頼関係を築いていく過程など、潜入捜査がバレやしないかとハラハラドキドキものだ。

この手の犯罪実話は事実説明が長々と続く読み辛いものが多いのだが、共同執筆者であるジョン・シフマン(ピューリッツァー賞最終候補にもなったことある新聞記者)がウィットマンの経験を見事に読みやすいノンフィクション作品に仕上げている。翻訳も上手い。現場の臨場感を味わいながら読める本である。

盗まれた美術品を潜入捜査によって次々と奪還していくストーリーがそれぞれ面白いのはもちろんだが、それに加え、自分が仕事をしやすいように上司を手玉に取っていくウィットマンの仕事ぶりを追うのも面白い。大半のFBI捜査官は美術犯罪に興味がない。銀行強盗犯や麻薬犯を捕まえることを一流の仕事だと思っており、美術犯を追っかけるのは二流だと思っている。当然、ウィットマンの上司も同じである。美術犯罪に人材を割く気もないし、ウィットマンがリスクを冒して潜入捜査することも快く思っていない。

そこで彼は、自分のやりたい仕事を続けられるよう、また自分の独特な仕事の進め方を規則でがんじがらめにされないよう上司を上手くたてる。例えば捜査の成功は全て上司の手柄にするのだ。メディアの注目を浴び、華やかに行われる記者会見の壇上に上がり、満面の笑みを浮かべながらFBIの功績を宣伝するのは事件を解決したウィットマンではなく彼の上司。潜入捜査官であり顔がばれたくないウィットマンはカメラに映らない最後方からその光景を見守るのである。

その他にも本書には、キャリアばかりを考える上司との上手い付き合い方について様々な教訓が散りばめられている。優秀なビジネスマンや官僚にぜひ読んで欲しい作品だ。何処ぞの国の幹事長にも読んでもらいたい。

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