『病んだ部下とのつきあい方 精神科が教える上司の心得』

東 えりか2013年10月26日 印刷向け表示
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病んだ部下とのつきあい方 精神科医が教える上司の心得 (中公新書ラクレ)
作者:西多 昌規
出版社:中央公論新社
発売日:2013-10-09
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先日、古い友人と食事をしていて仕事の話になった。彼女は、ある地方自治体で親子支援の関係部署で働いている。苦労の末に資格も取り、優しい物腰やきちんとした対応で、組織の中からも相談される父兄からも信頼され頼りにされている。

しかし、その日打ち明けられた部下との確執は深刻だった。自分勝手では片づけられない支援者への態度、情報を捻じ曲げて報告し現場を混乱させ、友人を困らせるためだけに考えられた稚拙な意地悪や無視に、ほとほと疲れ切っていたのだった。どうやら、本質にあるのは被害妄想らしい。これ以上、症状がひどくなったらどうしようかと悩んでいた。

ひとりよがりの上司も困ったもんだが、心が病んだ部下に対して上司や会社はどう対応したらいいのか。一歩間違えば、相手も自分も大きく傷つき、命にかかわることになるかもしれない。そんな現場からの相談に対し、たくさんの具体例を出して精神科医が回答しているのが本書である。

いくつか例をあげてみよう。

地方銀行勤務の真面目な社員。温和で実直な性格から周囲の評価も高い。結婚もし公私ともに順調のなかで、配属されてきた部下が非常にミスの多い男だった。その穴埋めをしつつ彼を指導。しかし少しも向上しない。ちょうど子供が生まれたので、イクメンになるべく家庭も大事にしようと必死になった結果、朝起きられなくなり、無断欠勤をするようになってしまった。

診断は「メランコリー親和型うつ病」。うつ病になりやすい性格類型の人が追い詰められた結果である。彼の上司が言ってはいけない言葉は「君らしくもない、しっかりしろ」と励ますこと。まじめなこの人に必要なのは休養なので、上意として「休養」をまじめに取り組ませればいい。

新人の研修医。慣れない救急科研修中、意識不明の肥満の患者から採血ができず、命を取り留めた患者から、後日、腕のしびれを訴えられ、本人に伝えられたことで心が折れた。それからは救急車のサイレンを聞くだけで過呼吸発作を起こすようになってしまう。

診断は「適応障害」。これは医師に関わらず、どんな仕事にも落とし穴があるはずだ。こういう人には「気にするな」と励ますより、苦しい胸の内を縷々聞いてあげるのが効果的だという。確かに励まされるのが辛い時はよくある。

しかしもっと深刻な精神病やパニック障害、アルコール依存症、自閉症型スペクトラム生涯(アスペルガー障害)など、初めて見る症状に対応するのは難しいだろう。類型的とはいえ、本書では個別に対応例をあげているので、手掛かりをつかみやすい

病んでいるというサインを出している部下へ、すぐに「精神科へ行け」というのは心情的にもまずいのはわかる。その前にするべき基本の「傾聴」「共感」「受容」もやりすぎるのではなく、事実と感情はきちんと分けて対応し、その程度についても言及している。

とはいえ、素人の生兵法は怪我の元。最後にはきちんとプロの手に委ねるため、その橋渡しをどうやってうまくやるかは、その人の手腕にかかっている。ましてや自分が病んでしまうなんて問題外である。「さいきんちょっと困ったなあ」ぐらいの人が、初めて手に取るにはちょうどいい、簡便でわかりやすい新書である。

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上司は思いつきでものを言う (集英社新書)
作者:橋本 治
出版社:集英社
発売日:2004-04-16
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橋本治らしい一冊だと思う。通り一遍の会社論ではないので仕事にすぐに利用できるかは疑問だが、「下から上へ」意見の通る社会になるのは難しい。なるほどなあと感心させられた。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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