『青春少年マガジン』 マンガHONZ by 佐渡島庸平

佐渡島 庸平2013年10月30日 印刷向け表示
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青春少年マガジン1978~1983 (KCデラックス)
作者:小林 まこと
出版社:講談社
発売日:2008-12-17
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”大げさと思うかもしれないが

オレはいつも神様に

こうお願いしていた

神様!!

オレはいつ死んでもかまいません

ただ!

今週号だけは仕上げさせてください”

『青春少年マガジン』の中で、小林まことが吐露する心情の一節だ。

マンガ業界の裏側を描いた作品に傑作は多い。実話を元にしているのであれば、藤子不二雄Aの『まんが道』、永井豪の『激マン』。フィクションであれば、原作・大場つぐみ 漫画・小畑健の『バクマン』、日本橋ヨヲコの『G戦場ヘブンズドア』などがある。どれも読みながら、自分の天職をみつけ、そこに命をかけて臨む姿勢にこちらの心も震えてくる。本気で何かに打ち込む姿は、人の心を打つ。

でも、そのような傑作の中でも、僕の心がもっとも震えるのは、小林まことの『青春少年マガジン』だ。

小林まことの作品の魅力を言葉で伝えるのは難しい。小林まことの代表作の一つ『What’s Michael?』は、猫のマイケルのする仕草が、なんとも魅力的で、ついつい笑ってしまう。論理的に説明することができない。小林まことによるコマ割りの独特のリズムが笑いを誘うのだ。『青春少年マガジン』を読んでいると、笑えるだけでなく、同じように生きることの切なさが、自然と伝わってくる。台詞ではなく、登場人物の表情とコマ割りによるリズムで、ここまで感情を伝えることができるマンガ家は、小林まことしかいない。そして、言葉を介在せずに伝わった感情は、心のすごく深いところに届く。『青春少年マガジン』は何度読んでも、涙が出てくる。その涙は、目からこぼれるというより、体の奥底から込み上げてくるような感じだ。

この本は「週刊少年マガジン」50周年を記念して描かれた作品で、小林まことが『1・2の三四郎』を連載していた1978年〜1983年の出来事が描かれている。

普通、こういう企画ものは、無難なものが多い。でも、『青春少年マガジン』は違う。小林まことが自分のすべてをさらけ出している。マンガ家としてデビューしたことがどれだけ嬉しかったのか。マンガ家として連載を続けていくことで、自分が、仲間たちがどれだけ精神をすり減らしていったのか。本当の仲間を見つける喜び。そして、仲間との別れ。

この作品の中には、我々が普段、他者には見せることのない、素の感情が飾ることなく描かれている。

この作品を読むと、やはり一流のマンガ家は自分たちとは違う才能を持っていて、別次元の人なのだと尊敬するかもしれない。それと同時に、このような濃密な人生の過ごし方をうらやむ気持ちも湧いてくる。

『青春少年マガジン』を読むと、このような才能を支える立場である編集者、エージェントという仕事に自分がつけていることがうれしくなる。

ちなみに、小林まことの初代編集者として出てくる工富さんは、僕の入社1年目の時のモーニングの編集長である。講談社では、新入社員の研修時に、毎日日記を書かされる。僕の日記を読み才能を感じてくれて、モーニングに引っ張ってくれたのは工富さんだ。売れる前のドラゴン桜を読んで「これはヒットするから頑張れ」と一番始めに声をかけて応援してくれたのも、モーニングから異動してマガジンの編集長になっていた工富さんだった。工富さんは、若くして他界してしまった。もしも生きていたら、起業を考えた時に、相談しにいったと思う。

小林まことさんの描く似顔絵は、細かい表情や仕草まで似ていて、この本を読み返すと工富さんと会ったような気になるから、僕は個人的にこの本が人一倍好きなのだ。

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